■■■ 今後の活動予定&お知らせ ■■■

【2024年3月研究例会の報告者募集】
 2024年3月10日(日)に開催される2023年度第2回研究例会(日本大学文理学部キャンパスにおいて15:00より)の報告を募集いたします。報告をご希望の方は、氏名、報告タイトル、内容の概要(300字前後)をメールにて、関東都市学会事務局までお寄せください。2024年1月18日(木)を〆切とします。申し込みが〆切を過ぎる場合には事務局までお問合せください。

【学会および会員からの募集・お知らせ、今後の活動予定】

■今後の活動予定
 2024年5月に関東都市学会春季大会の開催を予定しております。詳細は、後日ニュースレターおよびホームページにてお知らせいたします。

■2023年度会費納入のお願い
 2023年度の関東都市学会年会費の納入をお願いいたします。2年度以上にわたって会費を滞納された方は、関東都市学会から日本都市学会本部に向けて提出する年度ごとの会員名簿から自動的に削除され、「日本都市学会年報」及び「日本都市学会ニュース」等が届かなくなるといった支障が生じますのでご注意ください。また4年度以上にわたって会費を滞納された方に対しては、原則として除籍の措置をとらせていただきます。会費支払と会員資格(関東都市学会及び日本都市学会)に関してのお問合せは、関東都市学会事務局まで文書あるいはe-mailでお願いいたします。

【終身会費制度についてのご案内】
 2019年5月25日の総会と理事会を経て、65歳以上の個人会員が利用できる終身会費制度が設けられました。例えば65歳になる年度に制度を利用開始した会員は、60,000円を一括納入していただけば、以後は会費の請求を受けません。詳細は下記規程をお読みいただき、ぜひご利用をご検討ください。制度をご利用になる際は、事務局info@kanto-toshigakkai.comまでご連絡をお願いいたします。
 なお、終身会費制度を利用しても会員資格としては「個人会員」のままですので、年報とニュースレターはこれまで通りお送りいたします。大会・例会での研究発表や年報への投稿資格も、日本都市学会の会員資格もこれまで通りです。また、関東都市学会理事の選挙権・被選挙権もあります。
 本制度は、2019年度会費から適用いたします。2019年度会費8000円を既にお支払いの方が制度をご利用の場合は、お支払い済みの8000円を終身会費の額から差し引くことといたします。なお、2018年度以前に65歳になられている会員であっても、2018年度以前会費のお支払い済み額は終身会費額から差し引かれませんので、ご了承ください。


■■■ 最近の活動報告 ■■■

 【2023年度第1回関東都市学会研究例会を開催しました】

開催日時 2023年9月17日(日) 14:30~17:30
開催方法 対面(会場:専修大学神田キャンパス7号館3階731教室)とZOOMミーティングのハイブリッド形式

【報告】
「夢の器としての都市(1)――歌謡における都市のイメージの自立性」
 杉平 敦(帝京大学)
「江戸湊エリアの文化資産考察――人と水辺の関係構築に向けた展望」
 大塚 匠・鈴木 健・中上俊介・藤田恵弥子・柳原 茜(京都芸術大学)
「都市ツアーによる地域再生プロセスに関する考察」
 河 承希(法政大学大学院)

【研究活動委員会 ラウンドテーブル企画「都市をめぐる研究・教育・実践のいま」第2回】
「地方の多様性に基づく災害復興と地域振興――いかに地域の個性を観察するか」
 野坂 真(早稲田大学)


■印象記
谷 公太(株式会社イーガオ)

 杉平敦氏(帝京大学)による第1報告では、歌謡曲における街区(浅草と銀座)のイメージの分析が行われた。その結果、先行研究が指摘する浅草から銀座への盛り場の変遷に対応せず歌詞におけるキーワードは交換可能であること、しかし1960年前後に浅草がレトロなイメージを強調するようになったことなどから、歌詞のなかで語られる都市を、その時々の実態とは切り離して、ある時代における「夢」を受け入れる自立的なものとして扱う方針が示された。フロアからの指摘もあったようにテキストマイニングを用いたアプローチをとる場合も、歌詞から都市にかんする知見を引きだす際には、本論は重要な示唆を与えるものであると思われた。
 大塚匠氏・鈴木健氏・中上俊介氏・藤田恵弥子氏・柳原茜氏(京都芸術大学)による第2報告では、中央区新川・佃・湊地域を対象として、利活用が進んでいないために住民にとって水辺が近いはずなのに遠い存在になっている課題がまず抽出された。そこで現在の行政区単位をこえた「江戸湊」としての独自性を確立するために、活用すべき文化資産を6つに整理したうえで、住民と水辺の関係性構築への提案が示された。K.リンチ『都市のイメージ』の概念を使うなら、水辺が交通のパスから行政区画に対応するエッジに後景化した現在、橋詰広場(=ノード)の活性化などの契機を通して、江戸湊なるディストリクトを確立しようとする試みなのだと感じた。
 河承希氏(法政大学大学院)による第3報告は、メディアの影響による観光の活性化が継続し、オーバーツーリズムによる都市再生が失敗した事例として鎌倉市の鎌倉高校前駅を、対して久喜市の鷺宮神社を成功事例として取り上げた。住民–自治体–観光客間の相互作用を分析した結果、観光の活性化は都市再生につながるわけではないという。私見ではハロウィンの時期に渋谷駅周辺にやってくる群衆のコントロールについて、どのように行うのか、誰が費用を負担するのか等、鎌倉の事例に類似した課題が多い(こちらも近年、外国人観光客の注目を集めているという)ように感じ、本研究はコンテンツツーリズムの文脈にとらわれない意義を有しているように思われた。
 研究活動委員会による第2回目のラウンドテーブル企画による報告は、野坂真氏(早稲田大学)からなされた。地域社会学や災害社会学に携わってきた報告者の足跡を辿りながら、とくに災害復興におけるコミュニティの変動過程に関する研究から①場が持つ機能の複合性、②レジリエンスが活性化する際の「思考の習慣」、③後方支援地を「長い時間軸で考える」必要性、という知見が共有された。また③で対象となった盛岡市は歴史・文化を活かした地方都市としても着目すべき事例であり、その点からも論点が提示された。提供された話題が豊かであっただけに時間の制約が惜しまれたが、限られたなかでもフロアからは活発な意見が展開された。


【2023年度関東都市学会春季大会を開催しました】

開催日時 2023年5月20日(土)12:30~18:00
開催方法 対面とZOOMミーティングのハイブリッド形式(会場:高崎経済大学1号館111教室)

■大会プログラム
【自由報告】 12:30~13:45
報告①「「東京」の境界を再考する―首都圏成立期の圏域画定過程に着目して―」 谷 公太(慶應義塾大学大学院)
報告②「東京都において再生されたマンションの立地特性と課題」
川原 伸朗(株式会社オリエンタルコンサルタンツ)
報告③「若者にとっての都市や地域の概念―大学の授業における学生の回答から―」 伊藤 雅一(茨城大学)

【シンポジウム】 13:50~16:30
テーマ「変わりゆく生活スタイルと居住・交流・関係の場―地方と都市の役割―」
司会・進行 佐藤英人(高崎経済大学)
開会挨拶 大矢根淳(関東都市学会会長・専修大学)
解題 米本 清(関東都市学会研究活動委員長・高崎経済大学)
・報告1「関係人口という新しいライフスタイル」(仮) 田中輝美(島根県立大学)
・報告2「アイディアをもって自ら行動する人が掴むローカルドリーム」(仮) 野澤隆生(辰野町産業振興課)、赤羽孝太(一般社団法人〇(まる)と編集社代表理事)
・報告3「開放的な<関わりの場>の集積と継続―山形県西村山郡西川町の事例を踏まえて―」(仮) 土居洋平(跡見学園女子大学)
・コメンテーター 須藤文彦(水戸市役所)
《その後、質疑応答および討論》

【総会・理事改選】16:40~18:00

■シンポジウム解題
米本清(関東都市学会研究活動委員長・高崎経済大学)

 関東都市学会では2021年度を中心に、新型コロナウイルスの蔓延が都市やその研究に及ぼす影響に関する検証を重ねてきた。コロナ禍が始まって以来リモートワークやこれを踏まえた郊外・地方居住などが脚光を浴びてきたが、ウイルスの流行も8波を数える中、人々の関心はより一般的・中長期的なウィズコロナ/ポストコロナの生活様式へと移りつつある。これらの動きは決してコロナ禍だけを踏まえて新たに生じたものではなく、その胎動は以前から各都市や地方の中に存在していたものであるから、検証にあたっては単に眼前の事象を追うだけではなく、コロナ期前後における学会内外の研究成果を高度に総合し発展させる必要性がある。
 都市や地方を取り巻く新潮流の背景には、生活スタイルの多様化・個性化や、ICT・AI技術の進歩に伴うDXの普及、働き方改革などがあるとされる。もちろん都市も地方も古代からモノやサービスの生産・消費や生活一般、移動などに関する技術の実験場であり続けたし、その応用に伴って絶えず変化してきた。ただしその変化はこれまで物理的な空間や慣習などに大きく縛られてきたし、研究者による現状把握や検証も多くがこうした制約を前提にしたものであった。しかしながら今日の多様化・個性化やDX化は、潜在的にこれらを飛躍的に自由にするものであり、例えば名目上は大都市に勤務しながら地方に居住する、多様な価値観を持つ人々が地方のコミュニティにハイブリッド方式で「集まり」これまでの経緯から解放された議論を行う、などといったさまざまな可能性を持つものである。行政においても、伝統的な価値観や方法論が支配的であった地方における大きな変革に対して積極的な向きは少なかったが、近年は進行する少子高齢化・人口減少などに対応し、デジタル田園都市国家構想や各自治体の前向きな取り組みなど、比較的柔軟に新潮流を受け入れ活用しようという動きが顕著になってきた。「人口」として定住人口だけでなくいわゆる交流人口や関係人口を評価しようという流れも一層進んでいる。
 こうした背景を踏まえ、今回の検証においてはこれからの地方と都市の役割、とくに前者に焦点を当てつつ、新しい生活スタイルがもたらす変化について議論を行いたい。なおコロナ禍のように不意に生じた事象を取り扱う訳ではないから、新しい動きを表面的に追うよりも、昨年度よりさらに専門的な、これまでの研究理論や手法の蓄積を踏まえた知の発展が可能であろうと考える。つまり、本大会は本学会において久々にわれわれが自らの専門性を高度に活かしつつ、地に足の着いた学究の世界から再び対象を見つめ直すことができる機会、しかもその中で変わりゆくもの、新しいものを浮き彫りにする機会となるであろう。また真に変化を捉えるためには、地方・都市の構造やそこに暮らす人々の幸福感、ウェルビーイングなどに対する洞察も必要である。このたびの検証が、参加する全ての人々にとり地方・都市への理解を大きく深めるものとなれば幸いである。


■印象記
《自由報告》
吉田 和広(法政大学大学院)

 2023年度関東都市学会春季大会における自由報告は3本であり、第一報告は、谷 公太氏による「『東京』の境界を再考する―首都圏成立期の圏域画定過程に着目して―」が行われた。そもそも「東京」は明治維新後につくられた地名であることもあり、都市としての「東京」なるものの範囲は時代や状況により揺れ動いてきた。本発表は、「首都圏」ということばに着目し、首都圏の境界がどのような経緯によって固められていったのかを、行政の報告書、関係者の論考、新聞報道などのテキストを読み解くことによって明らかにすることを目的としている。1950年代前半、大ロンドン計画を参照し、巨大都市の拡大をグリーンベルトで抑え込む構想もあったが次第にそれも曖昧となり、多くの議論が重ねられた後、1956年、首都圏整備法により首都圏は1都7県と定められるに至ったことが明らかにされた。今後の課題としては、本研究で分析された当時の都市計画者たちの視線のみならず、市井の人々の反応がどうだったのか、等の点があげられた。
 続く第二報告は、川原伸朗氏よる「東京都において再生されたマンションの立地特性と課題」が行われた。共同住宅に住まう世帯の比率が高い東京において、今後、築40年以上を経過し、建て替えもしくは大規模修繕を必要とする高経年マンションの急増が確実視されている。東京都は条例や制度を見直すことにより、高経年マンションの再生を促しているが、その再生事業の実態はどうなっているのかを明らかにすることが本研究の目的である。再生事業が行われたマンションを分析したところ、築年数は平均47年、鉄道駅から750m圏内、地価が一定水準以上にある地域であること、等の結果が明らかになった。しかしながら東京都に存在する高経年マンションのうち、再生を確認できたのは全体の僅か3%に留まる。今後は、再生・更新を円滑に進めるために官民あげての取組み強化が必要であることが提言としてあげられた。
 最後の第三報告は、伊藤雅一氏による「若者にとっての都市や地域の概念-大学の授業における学生の回答から―」が行われた。本研究は、発表者が大学で実施した授業における学生の回答を通じ、若者にとっての「都市」や「地域」といった概念の主観的な捉え方を分析したものである。その結果、「都市と『都会』、地域と『田舎』ともに未分化傾向が確認できる層」は約25%、「都市と『都会』、地域と『田舎』ともに分化している層」は約27%という結果が明らかにされた。また、2021年・22年(コロナ禍)、23年(脱コロナ過程)との比較分析により、移動制限の解放は、地域と「田舎」の未分化傾向を低め、都市と「都会」の未分化傾向を高める可能性があることが示唆された。本研究は、若者にとっての主観的な都市や地域の概念がコロナ禍によってどのような影響を受けたのかにつき解明を試みる、という独創的な内容であり、都市学という学問分野の持つ奥の深さを知らしめたものといえよう。

《シンポジウム》
畑山直子(特定非営利活動法人サーベイ)

 春季大会の後半は、「変わりゆく生活スタイルと居住・交流・関係の場―地方と都市の役割―」と題したシンポジウムが、佐藤英人会員(高崎経済大学)の司会・進行で行われた。
 大矢根淳会長(専修大学)による開会のご挨拶のあと、米本清研究活動委員長(高崎経済大学)より解題のご説明があった。今回のシンポジウムの問題設定には、近年人びとの関心がより一般的・中長期的な「ウィズコロナ」の生活にシフトしていく中で、生活スタイルの多様化や個性化、またさまざまな「人口」(定住人口、交流人口、関係人口)について再考することが要請されているという背景がある。今回は特に、地方と都市の役割に焦点を当てながら、人口の流動を含む新しい生活スタイルがもたらす変化を多角的に議論することが主題であった。ここでは、シンポジストのご報告内容をまとめたあと、所見を簡単に述べたい。
 第一報告は、田中輝美氏(島根県立大学)による「関係人口という新しいライフスタイル」である。田中氏はまず、関係人口を「特定の地域に継続的に関わる人口」と定義した上で、さらに空間と移動という二軸から関係人口の4類型(①来訪、②風の人、③二拠点、④非身体的移動)を析出している。これらの定義・類型を念頭に、関係人口は、「観光客」と「定住者/移住者」との間に位置づくような存在であることが指摘された。特にその特徴は、地域との関わり方からみることができるという。例えば、島根県邑南町羽須美地域の事例紹介では、イベントの運営に県内外の人びとが20-30人参加するが、関係を構築することに喜びがあり、さらにそのことがモチベーションの向上につながることが指摘された。また、ゲスト側も地域外から通うリピーターが多いが、イベントを消費するよりも協働の側面が強いことが紹介された。ここに地域と継続的に関わるライフスタイルが生まれていることをみてとることができる。
 第二報告は、野澤隆生氏(辰野町産業振興課商工振興係長)、赤羽孝太氏(一般社団法人〇(まる)と編集社代表理事)による「アイディアをもって自ら行動する人が掴むローカルドリーム」である。野澤氏と赤羽氏の出会いと、ともに活動をするようになった経緯等が説明されたあと、野澤氏の働きかけや活動がきっかけで、現在辰野町では空き家の活用を中心に、「ゼロイチの立ち上げ」を町として支援する仕組み作りが整ってきた様子が紹介された。中でも、「関わりしろ」を大切にしながら、人をつないできた(いく)プロセスが丁寧に報告された。また、具体的な事業も多く紹介され、「地域を共に創り」「地域を共に楽しめる」人を増やす取り組みについて視覚的にも楽しみながらお話をうかがうことができた。
 第三報告は、土居洋平氏(跡見学園女子大学)による「開放的な<関わりの場>の形成と継続―山形県西村山郡西川町大井沢の事例等を踏まえて―」である。土居氏は、近年住む場所や関わる場所を自身の生活スタイルに合わせて選択するような「新しい生活スタイル」が出現し、その象徴としてIターンがあることを指摘した上で、山形県西村山郡西川町大井沢では、地域の祭りの企画や地域づくり計画策定のために立ち上げられた「大井沢の元気を創る会」(現「大井沢の未来を描く会」)が「開放的な<関わりの場>」として機能していることを提示した。さらに、そのような場が都市でも求められているとし、文京区におけるコミュニティスペースが、その代替的な機能を果たしていく可能性について示された。
 以上の三報告を受けて、コメンテーターの須藤文彦氏(水戸市役所)より、さまざまな示唆に富むコメントが出された。中でも、辰野町のケースはホスト側よりもゲスト側のニーズを掴んでいったことが成功につながっている、というコメントや、<関わりの場>の開放性は多様な人が関わるという点にポイントがあり、「新しいライフスタイル」とは、これまで一部の人で構成されてきたコミュニティが、多数に、そして多様化していくという変化から捉えられるのではないか、というご指摘は特に重要であろう。
 以上がシンポジウム全体の要約だが、今回のキーワードはやはり「継続性」であると思う。今、日本の各地域では、関係人口、移住者を含め、地域に関わっていくというライフスタイルがいかに持続するのか、という問題がある。それは、「Aさん」という個人が地域に定住するという意味でも、地域に通い続けるという意味でもなく、「何らかの形で地域に関わるというライフスタイル」が、いかにして社会に浸透していくのか、という問題である。ここで重要なのは、地域に関わる彼ら自身がその関わりを「楽しみ」、「自分のために」活動するということではないだろうか。そのような志向性が都市住民の中に一定程度あるということを改めて踏まえながら、「地域おこし」や「まちづくり」を考えていくことも大切だと思う。

【2022年度第2回研究例会を開催しました】

開催日時 2023年3月26日(日) 15:00~17:30
開催方法 対面とZOOMミーティングのハイブリッド形式(会場:日本大学文理学部キャンパス 本館4階学生実習室)

【報告】
「足立区における地域帰属意識の地域間格差」
 吉田 和広(法政大学大学院)
【研究活動委員会 ラウンドテーブル企画「都市をめぐる研究・教育・実践のいま(仮)」】
「非-移動性の社会学の展開可能性―自分史をふまえて―」
 伊藤 雅一(茨城大学)

■研究例会への「ラウンドテーブル」設置とそのパイロット報告実施について
 少子高齢社会にともなう学会構成員の変化、2020年から続くコロナ禍にともなう対面交流の制限などにより、学会運営上の課題が(どの学会においても)顕在化してきた。課題としての学会構成員の世代交代が移行しつつある現状において、学会内部における運営に関与する若手・中堅層の発掘・育成や、将来的な会員候補としての(若手)研究者や実務者との活発な研究交流促進による、学会参加の付加価値増大を図ることが、課題改善の一助につながるものと考えられる。
 専門学会に比べての本学会の一番の魅力は、都市(学)研究をテーマに、経済学、地理学、社会学、都市計画論、政策論などの専門家が集っている学際性が挙げられる。学際性は、間口が広いという利点がある一方、専門性の相違から互いの文脈が分からなくなる欠点がある。そこで、「都市学」という共通プラットフォームのもとでの文脈共有の機会として、「ラウンドテーブル」設置を提案したい。発表者は、通常の報告という形ではなく、話題提供というスタンスで臨むことを前提に、過去の経歴と現在の活動を発表することで、発表者にとっての自己紹介や悩み相談、聴者にとっての近接領域の把握や他分野の研究への理解を深める機会などとなることを期待している。
 こうした取り組みは、学会にとっての重要な資源となる例会・大会企画の質や、共同研究の促進といった研究交流機能を高めるはずである。また、研究者だけではなく、行政職員やシンクタンク社員など、在野の研究者や実務家等が参加しやすい環境を構築することは、本学会の特徴を活かすことにもつながる。まずは、研究活動委員の伊藤が試行的な発表を行うことで、本枠の名称や方向性について議論するきっかけとしたい。
(研究活動委員 伊藤 雅一、松橋 達矢)


■印象記

吉田 資(ニッセイ基礎研究所)

 冷たい雨で、花冷えとなった2023年3月26日(日)に2022年度関東都市学会第2回研究例会が対面(日本大学文理学部キャンパス)とオンライン(ZOOM)のハイブリッド形式にて開催された。
 さて、今回の研究例会は1本の報告と、研究活動委員会「ラウンドテーブル企画」のパイロット報告があった。
 報告は、吉田和広氏(法政大学大学院)による「東京都足立区における地域帰属意識と地域スティグマ」である。本研究は、東京都足立区を対象に、居住者が被地域スティグマを抱えているのか、被地域スティグマがみられる場合にどの属性で顕著なのかをアンケート調査から明らかにしようとしたものである。2021年に東京都区部の住民約2千人を対象に実施した調査では、足立区は、他区と比較して「居住区の対外的イメージ」項目のみが低位で、特に居住期間が長期で、かつ年齢が46才未満の回答群が低い結果となった。この結果から、足立区は被地域スティグマを依然として抱えているが、居住期間が短い住民は被地域スティグマが弱く、足立区のイメージ改善の取組みが実を結んでいるとの報告があった。質疑応答では、居住期間が短いがゆえ地域への理解が進んでおらず上記の結果となった可能性はないか、隣接する埼玉県南部の居住者からみた足立区のイメージはどうか、等の意見が挙がった。筆者は業務で不動産評価に携わっているが、本研究のテーマである「地域のイメージ」は重要な評価項目の1つである。人々の関心も高いトピックであり、多くの地方自治体がイメージ向上の施策に取り組んでいる。その施策の効果検証は重要性が高まっているといえよう。例えば、足立区でイメージ改善に寄与した考えられる具体的な取組みがぜひ知りたいところであった。報告内容のさらなる探究が期待されるところである。
 研究活動委員会「ラウンドテーブル企画」のパイロット報告は、伊藤雅一氏(茨城大学)による「非-移動性の社会学の移転可能性-自分史をふまえて」である。本報告では、研究交流の契機として、興味関心の共有を目的とした「自分史からみる都市や地域」、現時点の研究に関する情報共有を目的とした「研究経過」、研究課題の共有を目的とした「暫定的な展望」の3パートに分けて、話題提供がなされた。
 民間企業に所属する実務家として、学会に参加させて頂いている立場として、大変有意義な報告であった。興味関心の背景となる「自分史」から現在の研究内容、そこにおける課題について一貫性をもってご説明頂いたことで、理解が深まった。
 2022年度に入会した筆者は、初めて研究例会に参加させて頂いたが、いずれの報告も示唆に富むものであり、都市調査の視点・関心を広げる貴重な機会となった。研究例会実施に向けて、様々なご準備をいただいた関係者の皆さまに御礼を申し上げたい。

 【2022年度秋季大会を開催しました】

開催日時:2022年12月4日(日)13:00-16:30
開催地:神奈川県小田原市
主催:関東都市学会
協力:小田原市企画政策課、NPO法人小田原まちづくり応援団、UDC小田原
会場:小田原市観光交流センター(神奈川県小田原市本町1丁目7-50)

■大会プログラム
12:30 会場集合・受付開始
13:00~13:30  フィールドスタディのためのレクチャー(解説:小田原市企画政策課)
13:30~15:30  フィールドスタディ(案内:小田原まちづくり応援団)
・テーマ:「歴史的資源を通じたコンパクトシティや地域循環共生圏のその先へ」
・訪問先予定:ミナカ小田原、おだわらイノベーションラボ、小田原市立図書館、小田原城/三の丸ホール、観光交流センターほか
15:30~16:30 フィールドスタディをふまえたワークショップ(会場:小田原市観光交流センターイベントスペース)

■解題
平井太郎(弘前大学)

 今回の秋季大会では来年度、関東都市学会で企画・運営する予定の日本都市学会大会におけるテーマを、みなさんとともにフィールドスタディを通じて探ります。スタディのフィールドは、来年度の大会の開催地でもある神奈川県小田原市です。
 神奈川県小田原市は、首都圏南西端に位置する人口18.7万人(2022年10月1日現在)の都市です。北西を箱根山系と丹沢山系に画された沖積平野が南東の相模湾に開ける地形から、古代・中世から一貫して東海道上の交通の要衝となってきました。このため縄文の住居群から古墳群、中世・近世の城館・街並み遺跡が重層しているほか、近代の町家や数寄屋、洋館なども点在しています。また、新幹線をはじめとする鉄道や高速道路網も早くから整備され、富士フイルムや日立製作所などの基幹工場が立地してきましたが、1990年代以降、製造拠点の移転が相次ぎ、ショッピングモールやアマゾン物流拠点などに転用されるようになっています。これにより、人口も2000年の20万人をピークに減少局面に入り、高齢化率も30%に達しています。一方で、この間の感染症拡大期には、テレワークの普及を受けて、東京都市圏からいわゆる「コロナ移住」をする人びとも増え、社会増に転じつつあります。
 こうしたなか小田原市では、2000年代以降、歴史的資源の活用や環境親和性の高いまちづくりを国の支援を受けながら進めてきました。まず地方再生コンパクトシティ事業を通じ、近代の町家や数寄屋などの保存活用だけでなく、駅周辺の再開発も進め、旧貨物駅では地元の民間事業者とともに、インバウンドもにらんだ公共施設と商業施設の一体整備(ミナカ小田原・小田原市立図書館など)が行われたほか、城跡内に市民ホール(三の丸ホール)と観光交流センターが竣工しています。またSDGs未来都市にも選定され、市民出資型の再生可能エネルギーの発電・売電事業(ほうとくエネルギー)が立ち上げられたほか、休耕地を再生した特産品開発(柑橘やオリーブなど)も進められています。さらに、現在、国が進めようとしているデジタル田園国家都市構想にもキャッチアップを図ろうと、ウェルビーイングの測定はじめ、新たな試みも始まっています。このほか、民間交通事業者と連携した公共交通システムの改革や廃校など公有施設の民間活用、小学校区単位の地域自治の取り組みなど、さまざまな取り組みが並行して動いています。
 こうした小田原市の取り組みは、首都圏をはじめ国内の同規模の中小都市、地方都市にも広く参照できる多数のシーズを抱えていると考えられます。そこで、今回のフィールドスタディでは、このうち駅周辺で実際に歩き、見聞きする範囲で、これからの都市研究をにらんだうえで、とりあげるにふさわしいテーマを、みなさんとともに探索します。そのうえで、ワークショップを通じて、できるかぎり絞り込んでいきたいと考えます。一人でも多くの会員のみなさんのご参加をお待ちしています。

■印象記
熊澤 健一(関東都市学会会員)

 12月4日(日)、2022年度関東都市学会秋季大会がテーマを「歴史的資源を通じたコンパクトシティや地域循環共生圏のその先に」とし、神奈川県小田原市の小田原市観光交流センターにて開催された。13時より資料が配布され、企画者の平井太郎会員(弘前大学)より大会の趣旨説明とフィールドスタディのコースの説明が行われ、引き続き小田原市企画部企画政策課の中井将雄課長及び小澤雅史係長、米山和人主任より「小田原ブック」、「第6次小田原市総合計画概要版」に基づき、まちづくりの理念、将来都市像「世界が憧れるまち小田原」に向けた施策の概要説明があり、NPO法人小田原まちづくり応援団の高村完二氏、渡辺剛治氏、青木洋江氏の案内で2班に分かれて13時30分からフィールドスタディを開始した。
 コースは、会場⇒お堀端通り⇒JR小田原駅東口駅前⇒再開発エリアのミナカ小田原(おだわらイノベーションラボ)、おだわら市民交流センター⇒弁財天通り⇒小田原城址二の丸⇒会場である。

 お堀端通りの中ほど幸田門跡には三の丸土塁が残っており歴史のまちを印象付けている。また、通りの上空にはカラフルな風船がデコレーションされている。JR小田原駅東口駅前で、案内役の渡辺氏より近年は観光客を対象に店舗構成がなされており、観光客数の増加により空き店舗数も減少傾向にあるとの説明を受ける。続いて、ミナカ小田原(地上14階、地下1階)に移動。屋上から自然に恵まれた小田原市域を俯瞰、足元の中心市街地へは移住者が増加し、駅西口の再開発事業もその流れとの説明を受ける。
 施設内の「おだわらイノベーションラボ」(公民連携・若者女性活躍推進拠点)において小田原市都市部都市政策課の山本圭一係長、山口洋平主査より「歴史的資源を通じた賑わいと交流のコンパクトシティの形成」、都市計画課の吉澤元克副課長より「小田原駅東口お城通り地区再開発事業」の説明を受ける。フロアーから「ミナカ小田原」公民連携の事業スキーム、おだわらイノベーションラボの設置、歴史的資源を通じたまちの景観づくりについての質問があった。
弁財天通りでは、城地(池)跡の復元計画について、城内では復元された銅門(あかがね)、馬出門ほかの説明を受け会場に戻った。
 会場に戻り15時30分よりフィールドスタディの参加者によるワークショップが5テーブルに分かれ開催され、フィールドスタディの感想として、交通アクセス、すなわち首都圏から通勤圏としては遠すぎ、観光としては近すぎるという「都市でも田舎でもないまち」で、市街地整備の現状として「子供が育てにくい環境、子育てにも優しくないまち」「ラディカルに史跡復元が進められるまち」、まちにいろいろな歴史があり「時代のミルフィーユ」との発表があった。さらに、松橋達矢会員より「小田原ならではの特徴、文化と自然のバランスを最大限活かしたときに、住まい方、働き方、幸福も含めたありかたを考えたとき、まちのブランド化というかたちで、これまでボトムアップ、これまでの文化資源を生かしながら、さらに新しいものが積み重なっているが、既存のものとのすみ分けだったり、新しい取り組みというところの選択、歴史的視野を含めて進んでいてそのバランスをどう取っていくか、これまでのいろんなものに手を出していくトータル的なまちづくり、再開発の在り方を脱しながら新しいモデルを作っていけるか」との発言があった。
 平井太郎会員が、ワークショプのまとめとして「どっちを向いて・だれのために・だれが、と言ったときに細やかな視点が求められる中で、手持ちの札が少ない小田原市がどうやりくりしていくのか、この問題は小田原市だけでなくあらゆる日本の都市が向き合う問題だろう」と総括しワークショップ、秋季大会を終了した。
 本大会は都市と地域(まちづくり)との関係性を、社会生活様式、行動様式の時代変化を背景に関係人口(論)の視点から考察する好事例であった。引き続き関東都市学会として2023年春季大会、小田原市を会場として開催される日本都市学会において更なる都市研究議論の深耕を期待したいと思う。
 最後に、遠方より大会準備、フィールドワーク、ワークショップに参加・協力いただいた平井ゼミ(弘前大学)の皆さんありがとうございました。


【2022年度第1回研究例会 オンライン開催のご報告】

開催日時:2022年9月10日(土) 15:00~17:30
開催方法:対面とZOOMミーティングのハイブリッド形式(会場:関東学院大学金沢文庫キャンパス)

報告1 「現代版風土記のススメ―工業都市 群馬県太田市の文化資産利活用提案を例に―」
鶴岡優子・村井裕一郎・真殿修治・岩井秀樹・板橋嶺・栗原正博(京都芸術大学)

報告2 「精神障害者の自立における家族の役割について―家族のインタビュー調査から―」
駒ケ嶺裕子(弘前学院大学)


■印象記
畑山直子(日本大学)

 夏の暑さとコロナの影響がまだ尾を引く中、2022年9月10日(土)に2022年度関東都市学会第1回研究例会が対面(関東学院大学金沢文庫キャンパス)とオンライン(ZOOM)のハイブリッド形式にて開催された。私はオンラインでの参加であったが、会場の熱気は画面越しにも伝わり、対面の醍醐味を改めて感じたところである。
 さて、今回の研究例会は2本の報告があった。第一報告は、鶴岡優子氏・村井裕一郎氏・真殿修治氏・岩井秀樹氏・板橋嶺氏・栗原正博氏(京都芸術大学)による、「現代版風土記のススメ―工業都市群馬県太田市の文化資産利活用提案を例に―」である。同じ大学院ゼミに所属するメンバー6名で取り組まれた本研究は、「デザイン思考」のプロセスを用いて太田市における社会課題を検討し、文化資産の利活用を通して課題を解決する方法を『太田風土記』として編集した大変意欲的なプロジェクトであった。中でも興味深かったのは、文化資産をいわゆる文化財に限らず、プロバスケットボールチームやブラジル人コミュニティなど広く捉えているところである。さらに、それらが既存の産業構造や行政主導のまちづくりに対して、「自助で興す力」を取り戻す可能性をもつことを指摘した点である。その一方で、フロアとの質疑応答でも言及されていたが、歴史資産の可能性も大いにあるにもかかわらず、地元でもなかなか活用されていない現状があるという指摘があった。それらをいかに位置づけていくかが今後のまちづくりの鍵になるといえるのではないだろうか。
 第二報告は、駒ケ嶺裕子氏(弘前学院大学)による「精神障害者の自立における家族の役割について―家族のインタビュー調査から―」である。精神障害者のケアを主に担う家族が高齢化している現状と、精神保健福祉法による保護者制度(精神障害者の保護を担うのは「保護者」であると定めた制度)の廃止が、家族にどのような負担をかけているのか、またその軽減はいかにして可能かについて、家族へのインタビュー調査から明らかにしようとしたものである。2017年に実施した女性8名のインタビュー調査では、「家族が考える自立」や「その自立を阻むもの」を明らかにした上で、親が高齢化していることで「親亡き後の生活」が強く心配されていること、そしてその不安や負担軽減のために家族会を主催するNPO法人やグループホームの役割が期待されていることが報告された。フロアからの質疑にもあったが、本報告は主に母親たちの役割にフォーカスしていたことから、家族内/夫婦間における性別役割分業が際立っていたように感じたが、本研究の主眼が「家族の役割」に置かれているのであれば、父親や兄弟姉妹の役割についてもぜひ知りたいところであった。家族の負担が重層的であることについて、さらなる分析を待ちたいと思う。
 最後に、久々の一部対面での研究例会実施に向けて、事前にさまざまなご準備をいただいた学会事務局・関係者の皆さまに御礼を申し上げたい。



【2022年度春季大会 オンライン開催のご報告】

開催日時:2022年5月29日(日) 13:30~18:00
開催方法:ZOOMミーティングによるオンライン開催

大会テーマ 「新型コロナ禍と都市―現場からの提示を踏まえた再考―」

■スケジュール
【シンポジウム】 13:30~17:00
司会・進行 米本 清(関東都市学会研究活動委員長・高崎経済大学)
開会挨拶 大矢根淳(関東都市学会会長・専修大学)
解題 米本 清(関東都市学会研究活動委員長・高崎経済大学)
報告
・「コロナ禍における人流分析」 藤原直哉(東北大学)
・「パンデミックからの復興とは?―「自粛できない」街・上野からの報告」 五十嵐泰正(筑波大学)
・「地方自治体における新型コロナウイルスへの対応について―ワクチン接種への取組を中心に」  後藤好邦(山形市役所)
コメンテーター 平井太郎(弘前大学)
《その後、質疑応答および討論》

【総会】 17:15~18:00
議題:2021年度事業報告、2022年度活動計画、決算案、予算案

■解題
米本 清(研究活動委員長)
 
 関東都市学会では、2021年度の秋季研究例会では「新型コロナウイルスと都市」を、また秋季大会では「ウィズコロナ/ポストコロナと都市」をテーマとして、新型コロナウイルスの蔓延が都市やその研究に及ぼす影響に関する検証を重ねてきた。本大会は、学会内外の方々にパネリストとしてご参加いただきさらに議論を深め、一連の取り組みの暫定的な締め括りとしようとするものである。
 昨年の秋季研究例会では初めて新型コロナウイルスをメインテーマとし、話題提供者の浅野先生から市民生活への影響やそれによって顕在化してきた都市社会システムの潜在的な問題に関するご提示をいただき、出席者の間で各自の研究・教育生活への影響なども踏まえつつ今後の展望も含めた議論がなされた。また秋季大会では会長からのご挨拶(災害分野への言及を含む)および米本による解題(経済学分野)に続き、NPO・ボランティア/災害、社会学、地理学の各分野から話題提供がなされ、グループに分かれたワークショップも開催された。なお、秋季研究例会が開催された2021年9月25日は五輪前後にわが国で猛威を振るった第5波がまだ落ち着いていない状況であったが、秋季大会が開催された12月5日は新規感染者数が全国で100名/日前後にまで下がり、ポストコロナの息吹が感じられていた時期であった。また、この解題を執筆中の2022年2月には再び第6波が拡大中であるが、こうした度重なる大きな変動の中で議論や検証を進めなければならないこと自体、新型コロナ禍に特有の困難を示している。
 これまでの議論では、従来都市の重要な成立要件とされてきた高い人口密度自体が新型コロナウイルスの蔓延を促進しがちであることから、ウィズコロナ/ポストコロナ下における都市のあり方に関して、以前から潜在的であった動向が表出したものも含め、様々な方向性が提示された。また新型コロナ禍によりはからずも都市社会システムの諸問題が浮き彫りにされたことなどから、都市学の研究者がこれまで行ってきた研究・教育がさらに深められ、それぞれ別の角度から光が当たっていることが確かめられた。
 ただこうした中で、各研究者の努力だけでは新型コロナ禍やその対応に関する都市社会全体における実際的・実践的な状況把握が追い付かない部分があることは、多くの方々が感じられている通りである。新型コロナウイルスの感染状況や変異株ごとのリスク、ワクチンの効果、そして都市において人々や自治体、各団体などが実際にはどのように新型コロナ禍に対応しているか、といった現状把握なしには、今回の諸議論は地に足のつかない、新型コロナ禍やその影響を過大または過小評価しながら持論を展開するものとなってしまいがちである。また、現場に近い方々のお話からは、われわれのスタンスを大きく変えてくれるような、予想外のヒントが得られる場合もままある。
 このたびの春季大会においてはこうしたコロナ禍のリアリティに関わるさらなる論点のご提供を中心として学会内外の研究者の方々にご登壇いただき、現状をより正確に把握しながら議論を深めることを趣旨としたい。とくに、行政における政策的・実践的な新型コロナウイルス対応やワクチン接種の現状、人々の行動(人流)とその抑制、まちづくりの現場における新型コロナ禍の影響などを中心にパネリストの方々からお話を伺った上で、単にここ2年間の直接的な動向を整理するだけではなく、新型コロナ禍が都市に対して本質的に何を提示しているか、これに応じて変わるべきもの、変わるべきでないものは何かといった、ポストコロナにおける都市社会に向け提示されている応用的な側面まで参加者自身で見極めていくことができればと考える。

■春季大会印象記
河藤佳彦(専修大学)

 今般の春季大会は、「新型コロナ禍と都市:現場からの提示を踏まえた再考」をテーマとしたシンポジウムが、ZOOM方式により開催された。会長の開会挨拶、研究活動委員長による解題の後、3名の報告者による報告、コメンテーターによるコメントと討論が行われた。
 開会挨拶では大矢根淳会長より、災害復興対策の認識枠組みを新型コロナウイルス対策に適用してみて「事前復興災害」(事前の復興まちづくりによって生活が脅かされる事象が発生する)を措定してみる、という視点が提唱された。続いて米本清研究活動委員長により解題が行われた。まず、新型コロナウイルスと都市をテーマとした本学会のこれまでの取組みが確認された。そして本大会は、コロナ禍のリアリティに関わるさらなる論点の提供を中心として現状をより正確に把握しながら、議論を深めることを趣旨としたい旨が説明された。
 藤原直哉氏(東北大学)による第1報告では、「コロナ禍における人流分析」と題して次のような報告が行われた。複雑ネットワーク科学の発展により要素が複雑に相互作用する社会/自然系を解析することや、携帯端末の普及に伴い人の位置情報を高精度かつ大量に取得することが可能になったことにより、人流など多くの地理的システムをネットワークとして分析することで、人流ネットワークのコミュニティ構造、災害時の避難行動、コロナウイルス拡大と人流の相関関係を把握することなどが可能となったことを踏まえ、人々が感染状況を見ながら適応的に行動を変容していることが示唆された。今後は、接触調査や人流を用いた精緻な感染拡大シミュレーションを行う予定であるとする。
 五十嵐泰正氏(筑波大学)による第2報告では、「パンデミックからの復興とは?-「自粛できない街」上野からの報告」と題して次のような報告が行われた。COVID-19は都市なるものの本質である「集積性」、「流動性」、「多様性」を直撃した。すなわち集積性については3密のタブー化、流動性については国境の閉鎖、多様性についてはスティグマ化した閉鎖的な社会集団の防疫上の脆弱性などである。上野は都市の3つの本質を備えた極めて都市的な場である。コロナ禍で顕在化した上野の特質は、インバウンド依存の高さ、「外飲み」「立ち飲み」の盛り上がりとそのSNS上での拡散、マスメディア上でのネガティブなラベリングである。これらの事象については、まちの戸惑いと両義的な評価が生じた。コロナ後の上野が目指すべき方向は、都市的な交流や体験を求める人を呼び込み、親密な関係性や体験が求められる場面を提供することであるとする。
 後藤好邦氏(山形市役所)による第3報告では、「地方自治体における新型コロナウイルスへの対応について-ワクチン接種への取組を中心」と題して次のような報告が行われた。コロナ対策で見えてきた自治体の課題は、①地方分権改革が後退したこと。すなわち、法律上は自治体の判断で決められることであっても国の方針どおりに実施する(通達主義への回帰)。②法治主義の空洞化。すなわち、法律において決められた規制や制限の範囲においてできることができていない。その中で山形市がワクチンの接種率日本一になった要因は、①早期の大規模集団接種の実施、②人的ネットワークを活かした情報収集、③関係機関との密な関係性、④対象者に合わせた接種体制の構築であったとする。
 以上3名による報告の後、平井太郎氏(弘前大学)によるコメントが質問形式で行われ、論点の明確化と議論の深化が図られた。最後に米本清研究活動委員長により、シンポジウムを通して明らかになった重要な論点について、滞っていた社会経済的変化が一気に進んだこと、新型コロナウイルス対策は危機管理のテストのような状況であること、ITやDX化が重要なキーワードになることが確認された。新型コロナウイルス感染拡大は決して歓迎される事態でないことは勿論であるが、この災いを契機として、ライフスタイルや働き方、社会経済のイノベーションの新たな方向を見出すことの必要性が、今回のシンポジウムを通して改めて実感された。



【2021年度第2回研究例会 オンライン開催のご報告】

開催日時:2022年3月12日(土) 15:00~17:30
開催方法:ZOOMミーティング

報告1 「所有者主導型の集合住宅管理の困難と展望―ハルビン市の模索を例に―」(仮)
張 修志(弘前大学大学院地域社会研究科)

報告2 「社会構造変革の新潮流を取り込んだ地域経済振興方策―長野県上伊那郡辰野町における取組みを事例として―」
河藤 佳彦(専修大学)


■印象記
須藤 文彦(水戸市役所)

 長引くコロナ禍により今回の例会もオンラインでの開催となったが、土日になかなか時間が取れずに総会や研究例会に足を運べなくなっていた私にとっては、大変ありがたい機会であり、多くの学びを得ることができた。まず、多忙な中で入念な準備をなさった皆様に感謝を申し上げたい。
さて私は、現実の都市行政に携わる実務家として本学会に参加させていただいている身である。したがって、研究例会や年報掲載の論文の見方は、学問の進展に貢献するかどうかよりも、「己の政策立案の思考の一助になるかどうか」という視点に偏りがちであるが、いずれの発表も示唆に富むものであり、我が都市のあり方を顧みる貴重な体験となった。
 張修志会員による第1報告は、中国のハルビン市を舞台に、単位制から社区制への移行という社会構造の変容と、集合住宅管理の実態とを関連付け、類型化を試みた意欲的な発表であった。老朽団地を巡る課題は日本においても大きな問題であり、戦後の人口急増期に建設された団地群をどのように畳むかは、地域性や背景が多様であるために唯一の解決策など存在しない。
 私は単位、社区、所有者委員会といった中国特有の組織の基礎知識が全くない中での拝聴だったが、発表後の質疑でも組織の定義を確認する発言が見受けられたので、日本の組織と比較したシンプルな対照表などが今後の論文に添えられると、一段上のレベルの議論が展開されるように感じた。また、他の質疑では、「共有において重要なのは、日常の清掃などよりも、建替えを意思決定できるかという点にある」という指摘があり、本報告内容のさらなる探究が期待されるところである。
 第2報告は河藤佳彦会員によるもので、社会構造変革の新潮流を踏まえ、長野県上伊那郡辰野町を舞台に取り組まれた地域経済活性化策についての論説である。冒頭で整理された新潮流は、全国的に共通に認識すべき、政策的思考の一助となる内容である。それを各地で応用するには様々な方法があるはずだが、ここでは経済的価値よりも社会的価値を創造することに重きを置いた辰野町の企業の活動の意義がまず示され、同類型の都市にダイレクトに援用し得る事例が詳細に丁寧に紹介された。
 質疑では、行政と民間のコーディネートの相違が問われ、行政のものは場の設定や側面的支援に強みがあることが説かれた。コーディネートの意義は、まちづくりの分野だけでなく、例えば芸術文化の分野でも盛んに議論されており、多様な分野を含めた広義のまちづくりにおいて、知恵と連携を高めるコーディネートの重要性を改めて認識することができた。
 さて、オンライン開催の有難みは冒頭に述べたとおりであるが、リアル開催における会員同士の交流は、学問や実務のレベルを高めるためにも、とても重要なものだと考えられる。コロナ禍が明けたら、双方のメリットを活かしたハイブリッド開催というものも、期待したいところである。


【2021年度秋季大会 オンライン開催のご報告】
※本大会テーマが持つ社会的意義を鑑み、速報として開会挨拶、解題、報告の逐語録を以下に掲載いたします(大会スケジュールの部分に貼ったリンクで移動してください)。

開催日時:2021年12月5日(日) 14:00~17:30
開催方法:ZOOMミーティング
主催:関東都市学会

大会テーマ「ウィズコロナ/ポストコロナと都市」

■大会スケジュール

話題提供 14:00~15:40
【司会・進行】米本 清(関東都市学会研究活動委員長・高崎経済大学)
【開会挨拶】大矢根 淳(関東都市学会会長・専修大学)
【報告】
①解題・経済学分野からの報告「コロナ禍と都市の経済・人流」
 米本 清(関東都市学会研究活動委員長・高崎経済大学)
②NPO・ボランティア/災害分野からの報告「コロナ禍における市民活動の展開」
 菅 磨志保(関西大学)
③社会学分野からの報告「都市社会学とソーシャル・ディスタンス」
 松尾 浩一郎(帝京大学)
④地理学分野からの報告「地理学におけるコロナ禍とポストコロナへの模索 ―都市地理学の視点から―」
 戸所 隆(高崎経済大学名誉教授)

質疑応答およびグループに分かれてワークショップ 15:50~16:55

全体でのディスカッションとまとめ 16:55~17:30

■秋季大会 解題

米本 清(研究活動委員長)

 都市というものがなぜ存在するのかを説明するとき、例えば経済系の分野においては、これまで集積の経済やface-to-faceコミュニケーションの役割などが挙げられるのが常だった。他の分野でも、例えば「にぎわい」などが肯定的に捉えられ、人々が「密」になって集うことこそが都市の魅力を高め、都市を成立させていることは当然のこととして理解されてきた。しかしながらコロナ禍は、そうした都市の根本的な成立要件に疑問を投げかけている。これまで多くの場合face-to-faceコミュニケーションやにぎわいを重視し、これを促進してきた政府や自治体なども、今や住民になるべくこうしたことを避けるよう要請している。こうした状況を踏まえて、2020年度の日本都市学会やその後の本学会の議論においても、1)都市の脆弱性、2)時空間の再編成、3)都市機能の分散、4)権威主義化などのトピックが検討されてきている。
 都市学がこうした事態においてできることは多岐にわたる。第一に、わずかな条件や政策の違いにより、数週間のうちに都市・地域内だけでなく他の地域や国の状況まで悪化させてしまう感染症を抑えるため、各研究者は何ができるか、という、具体的・実践的な方向性もある。また、蔓延により影響を受けているコミュニティや企業、とくに危機に瀕している方々の活動状況などを把握し、これらに対する処方箋を提示する必要性もある。この際、フィールドワークなど研究の方法論に関しても、コロナ禍に対応しながらどの程度充実した調査などを続けることができるか、といった試行錯誤があるかもしれない。第二に、例えばリモートワークの普及や人々の過密に対する考え方の変化など、コロナ禍によって長期的にも移り変わる可能性のあることを示し、それらがどの程度本質的なものなのか(あるいは著しい蔓延期にのみ起きる短期的な変化なのか)を考察するといった、より都市学の基本に迫る方向性もあるだろう。
 なおコロナ禍においては、全てのことがまだ流動的であり、議論の前提自体が変化し続けていることにも留意する必要がある。例えばウイルスの性質やその脅威に関しても、まだ検証が続いているだけでなく、新たな変異株が出現するたびに対応や政策を大きく変えなければならない事態となっている。ワクチンの有効性や欠点などについても、各国における接種結果を踏まえてようやく知見が得られつつある段階である。
 これまで考察において地道な調査・分析が必要とされてきた学術研究の世界において、研究の前提や対象の現状が数週間単位で大きく変化してしまうという厄介な状況が続きながらも、全国的・世界的に最優先に解決すべき課題として検証を求められているという点、また都市学においてはとくに肯定的に捉えられがちであった集積やにぎわいといったものが、一般的に忌避されるべきものとされる状況で、どのように都市というものを捉えるべきか、といった点など、コロナ禍はわれわれに非常に大きな挑戦をつきつけている。本大会およびこれに関連する各種プロジェクトは、これにどう応じるか、という答えを探す道のりの一部である。

■秋季大会印象記

 山本 匡毅(高崎経済大学)

 2020年から続く新型コロナウイルスの猛威は衰えることなく、関東都市学会2021年度秋季大会も影響を受け、2021年12月5日(日)にオンライン(ZOOM)で開催された。本大会のテーマは、「ウィズコロナ/ポストコロナと都市」であり、経済学分野、NPO・ボランティア/災害分野、社会学分野、地理学分野の4つの分野から報告が行われた。その後、3つのグループに分かれてワークショップを行い、最後に全体でディスカッションとまとめの共有をした。
 最初の米本報告では、経済学では都市を集積の経済として捉え、face to faceによる賑わいや密が当たりのものとされていたが、新型コロナウイルスの影響で、都市の脆弱性、時空間の再編成、都市機能の分散、権威主義が課題となってきたとする。例えば都市経済学ではアロンゾ型の地代曲線から職住分離を前提としていたが、テレワークによって職住近接になれば、中心と郊外でコミュニケーションが円滑になる。都市空間には物理的な空間とフロー・ストックがあるとし、前者は従来のままで良いのか、後者はバーチャルな事象、データ等を扱う問題が残されているという。今後も政府がけん引するテレワークは一部で続くが、産業によって状況が異なると指摘した。
 次に菅報告では、新型コロナウイルスに対する政府の緊急経済対策において困窮する世帯への支援を市民セクターが対応したとし、NPOの調査が施策展開に結び付いたとする。その上で、市民セクター(NPO)は社会的使命を果たしており、特に資源開発が必要になっているとし、かかる資源提供者をNPOとつなぐ中間支援組織の役割が重要になってきたという。しかしながら、NPOは委託事業収入や自由事業収入が大幅に減少し、補助金、助成金、寄付金が増加してきた。これは政策アドボカシーの展開が寄与しているとされる。今後、中間支援の実態調査、要望、問題の可視化、資源調査、連携・越境による資源の有効活用が求められているとされた。
 さらに松尾報告では、第一の論点として社会病としての感染症(social disease)が提起され、社会が感染の広がりを生み出し、「ソーシャル」が社会の中の悪い関係性になっているとする。そして、社会的に介入可能なものとして対象化することで、悪い関係性が解消されるとした。第二の論点として、様々なソーシャル・ディスタンスが示され、ロバート・E・パークを引用しながら、マスクで隠されるものはアメリカでは全く理解しがたいものであり、好井裕明の社会的儀礼という距離感がポイントで、ソーシャル・ディスタンスのスケーリング、生態学、距離行動の諸研究を引用し、その距離について明らかにした。
 最後の戸所報告では、地理学において新型コロナウイルスの研究が少ないとした上で、GISによる空間的拡散や人流変化の成果があるとする。ただ地理学では現地調査ができないと研究に影響があり、実証研究ができていない指摘した。その上で、新型コロナウイルスによって、都市は変わらないもの、変わるもの、変えてはいけないもの、変えなければならないものの4つがあるとし、中長期において都市スケールで見ることを提示した。この中で変わらないものは都市の本質である創造性であり、集積、賑わいは不変であるという。変わるものは自然現象、価値観、変えなければいけものには都市の本質、アイデンティティ、変えねばならないものには中央集権型、資本の論理、制度などがあるとした。これらから、変えるべき理念は開発哲学であると論じた。
 3つのワークショップ後に行われたディスカッションでは、NPO分野では市民セクターの動きを知る機会がなかったが、社会全体の中で関係性を築く中で大きな意義があったとした。その上で、コロナ禍における組織の変化や自然災害との差異があることを提起され、重なる災害で取り残される人が増えていることが格差として現れていることがあり、社会システムで市民活動をどのように位置づけるかという意見が出された。
 社会学分野では、三つの論点があった。第一に近接性には物理的なものと社会的なものがあり、空間におけるずれを調整する儀礼的振る舞いが変わったとし、排除が強まった中で他者への信頼をどのように築くのかが論点になった。第二に都市のあり方として、物理的、社会的インフラがあるが、都市はこれで成り立っているのか疑問が提起され、社会性などの違いを掬い取っていくためのフレームの必要性が提起された。第三に都市と社会の結びつきについて、異なる社会性の中で結びつきを可能とする儀礼、信頼について意見が出された。
 地理学分野では、コロナ禍の影響と課題が鮮明になり、変わるものとしては価値観が大事であり、手段の明確化が求められた。さらに変えてはいけないものとして、全体像を捉えるべきことがあるとし、情報の偏りのないようにすることが大事だとされた。そのほかにも都市の本質としてあるべき方向性を考える必要性に迫られていることから教育が大事であり、限界集落では分権型への移行が大事であるという意見が出た。
 本大会では、「ウィズコロナ/ポストコロナと都市」を学際的に検討した。「ウィズコロナ/ポストコロナと都市」の問題は、資本主義の論理だけでは解決できないものであり、バーチャル空間、市民セクター、社会関係(社会性)を踏まえた都市政策を通じて克服するものであることが確認されたと思われる。しかしながら、「ウィズコロナ/ポストコロナと都市」の時代における開発哲学や政策の方向性が共有、解明されたわけではない。都市学は学際的であるがゆえに、松尾氏が指摘したように、分野によって見方が多様であることが浮き彫りになった。今回の成果は、新型コロナウイルス感染症の時代における現代都市の抱える問題の本質を再検討した結果である。この結果を踏まえて、ウィズコロナ/ポストコロナの都市のあり方(都市政策)を考えていくことが求められているように感じた。


【2021年度 第1回研究例会 オンライン開催のご報告】

開催日時:2021年9月25日(土) 15:00~17:30
開催方法:ZOOMミーティング

研究例会の全体テーマ「新型コロナウイルスと都市」

話題提供 浅野 幸子(早稲田大学)
※話題提供の後、研究活動委員会の企画で秋季大会に向けたディスカッションを行った。


■印象記
松橋 達矢(日本大学)

 秋雨とともに若干の肌寒さも覚えた2021年9月25日(土)、関東都市学会2021年度第1回研究例会がオンラインにて開催された。今回は、12月5日に開催が予定されている秋季大会企画「ウィズコロナ/ポストコロナと都市(仮)」の「一歩前」として、前半が当該テーマに係る論点整理を企図した浅野幸子氏(早稲田大学)による「新型コロナウィルスと都市」と題された報告に基づく話題提供、後半がZoom「ブレークアウトセッション」機能を用いての会員間での簡易的なワークショップ形式で構成、非常に熱のこもった議論が展開された。
 さて、前半の浅野報告では、新型コロナウィルス感染症という「未知」かつ「不可視」の疫病がもたらす市民生活全般への負の影響としての「インフォデミック」に着目しつつ、その結果露わとされた都市社会システムが潜在的に抱える「軋み」へと言及された。人々の生命や生活を脅かす「リスク」は、とみに個人化の進展する近年、一定程度の階級性・階層性を有しつつも、脱階級的な「発生可能性」が向上(不確実性の増大)したものとみなされる。今日のような「リスクへの不安」に対する人々の反応が過敏化する状況下においては、労働市場や家庭、そして学校や地域社会における再生産の担い手として主要な位置を占めつつも、インフラも含めた各種資源へのアクセシビリティに恵まれない社会的な立場が弱い人々(報告では「脆弱層」と表記)へと負の影響が先鋭化されやすい。とりわけ人々の「移動」を制限しつつ、「ソーシャルディスタンス」拡大戦略のもとで公共空間における「密」の徹底的回避が政策的に求められた東京圏では、これまで通勤/通学など「移動すること」を前提に生活を組み立てる職住分離の空間として組織化されてきたが故に、プライベートとパブリックを接続するための役割を代替的に担う特定職種、そして家事や各種ケアを担う場としての「家/家庭」へと負荷が偏在した点は記憶に新しい。浅野氏が指摘するように、直近において表面化した「リスク」の代表例として研究蓄積の厚い大規模災害との共通点と差異へと目配りしつつ、とかく負荷のかかりやすい脆弱層を包括可能とする都市コミュニティないし都市ガバナンスのありかたを、階層やジェンダー等の観点からとらえ返す重要性が改めて認識されたといえよう。
 それを踏まえての後半のワークショップでは、各自の研究・教育生活におけるコロナ禍の諸影響についてグループ単位でざっくばらんに語りつつ、グループからの復帰後、「ウィズコロナ/ポストコロナ」下における都市の議論可能性について意見交換と共有がなされた。対象設定や調査手法含めた方法論上の困難と新たな可能性の双方を見据えながら、フィールドにおいて、あるいはデータの中にあらわれる変化の「兆し」にまなざしを向け続ける重要性、そしてこれまでの学問的知見に立脚しながら新たな都市社会システム構想へとつながる「萌芽」を見出していく姿勢については、多かれ少なかれ共通していたように思う。ただし後者についていえば、当日参加した会員からの発言にあるとおり、都市学会の専門性と領域横断性を活かす形で、「ポストコロナ/ウィズコロナ」時代における都市のフィロソフィーをどのように提示していけるのか、という非常に大きな課題がついて廻ることも確かである。秋季大会に向けて、そしてその先に向けて考えるべきことは多い。


【2021年度春季大会および総会 オンライン開催のご報告】

開催日時:2021年5月23日(日) 12:30~17:50
開催方法:ZOOMミーティングによるオンライン開催

スケジュール:
【総会前半】 12:30~13:00
議題:常任理事の選出

【自由報告】 13:00~13:50
報告1「中国における不動産管理についての研究」(仮)
張 修志(弘前大学大学院地域社会研究科博士課程)
報告2「「場末」を見いだす――戦前期東京の周縁部に着目して」
中川 雄大(東京大学大学院学際情報学府博士課程)

【シンポジウム】14:00~17:10
大会テーマ 「都市の更新―オリンピック開催を契機として―」
司会・進行 熊澤健一(関東都市学会研究活動委員長)
開会挨拶 大矢根淳(関東都市学会会長・専修大学)
報告
・「東京2020大会と財政政策―東京五輪(1964年)からの教訓―」金子光(慶應義塾大学)
・「『首都圏』形成の歴史社会学―『東京都心』の中枢性と先端性のせめぎあいをめぐって―」 松橋達也(日本大学)
・「東京オリンピックと都市の経済―その光と影―」米本清(高崎経済大学)
総括 大矢根淳

【総会後半】 17:10~17:50 
議題:2020年度事業報告、2021年度活動計画、決算案、予算案、理事の選出等

■春季大会 解題
熊澤健一(研究活動委員長)

 2020年の東京は2回目のオリンピックイヤーであり、本大会シンポジュウムは、2020年5月の春季大会において東京オリンピック・パラリンピック2020(以下東京2020)の開催が都市や社会に与える多面的な影響に関する考察として、企画されたものである。
 疫病(新型コロナウイルス)のグローバルな感染拡大を受け、オリンピックの開催は2021年に延期され、本大会も感染拡大防止を旨として本年に延期された。
 政府は首都圏を対象に策定する空間計画(首都圏整備計画と首都圏広域地方計画)に、首都圏の現状と課題から首都圏の将来像を「確固たる安全・安心を土台に、面的な対流を創出し、世界に貢献する課題解決力、先端分野・文化による創造の場としての発展を図り、同時に豊かな自然環境にも適合し、上質・高効率・繊細さを備え、そこに息づく人々が親切な、世界からのあこがれに足る『洗練された首都圏』の構築を目指す。」と設定し、その施策の一つとしてオリンピックの開催を位置づけた。(平成28年3月 国土交通省)
 この春季大会と一連のものとして企画され、オンライン形式で開催された前年の秋季大会シンポジュウムにおいては、オリンピックの開催そのものが都市や社会に対して決定的な影響を与えるものではなく、政府の施策として誘致(開催決定)から開催準備・開催さらにポストオリンピックのすがたを意図として進められた土地利用計画及び施設整備などが開催地域に大きな影響を及ぼしたことが報告された。
 また、オリンピックの準備・開催には施設整備にとどまらず多額の費用負担が必要であり、開催地域におけるインフラ整備も大規模に進められたことが報告された。
因みに、国家的大規模イベントである万国博覧会(開催)と比べオリンピック(開催)が都市に及ぼす影響は首都圏整備計画(平成28年3月 国土交通省)首都圏広域地方計画(平成28年3月 国土交通省)にみるように単に開催都市(地域)の施設・インフラ整備に止まらず、国家や自治体、企業や地域住民などの主体が多大な影響を受け、ポストオリンピックの社会のありようにも影響が及ぶなど広域かつ多岐にわたると考えている。
 東京2020は新型コロナのグローバルな感染拡大の収束が見通せないまま、大会(参加アスリート等)及び日本国民への安全を旨として海外からの観客(インバウンド)なしの方向で開催されることになった。(3月21日現在)

・首都圏整備計画からの振り返りとして
 第18回オリンピック東京大会(1964年10月開催)開催決定前後の東京の状況は、経済の高度成長を背景に「公共投資が立ち遅くれ,したがって公共施設が未整備の状態であったところへ人口と産業の過度集中がおこり,市街地は無計画に膨脹し,交通事情は極度に悪化し,上下水道等の都市施設の需給はアンバランスとなり,居住環境は次第に悪化し,オープンスペースは全く不足するなど,その事態をますます深刻化させていたのである。」(第18回オリンピック競技大会東京都報告書 昭和40年3月31日 東京都)
 この様な東京の状況下、1956年の首都圏整備法の制定を受けて1958年の第一次首都圏整備基本計画は、人口配分,土地利用計画等の基本計画を策定し、これに基づいて1975年を目標に市街地再開発計画等の主要な公共施設及びインフラの都市機能の更新に重点を置いた整備計画のなかにオリンピック開催を位置付けた。
 また、第18回オリンピック東京大会関係事業と首都圏整備事業との関係は、「準備対策事業の大部分は首都圏整備事業に包含されており、オリンピックを契機として、本来首都東京の過大都市の弊害是正が主眼である首都圏整備事業が大いに促進されたものとみることができる」と総括されている。(第18回オリンピック競技大会東京都報告書 昭和40年3月31日 東京都)

・政府が首都圏を対象に策定する空間計画への東京2020の位置づけ
 首都圏整備計画(平成28年3月 国土交通省)は、計画の意義について、課題に広域的に対処し、首都圏に居住し又は首都圏を活躍の場とする多様な主体が生活や活動の質を高めることのできる社会を実現するため、広域的な視野の下に、地域の将来展望を示し、長期的、総合的な視点から地域整備を推進することを目的として策定するものとされている。
 1964年のオリンピックの開催がもたらした首都圏整備事業の促進効果を踏まえ、東京2020においては、「『オリンピック・パラリンピックの機会に、洗練された首都圏と東北の復興を世界にアピール』東京でオリンピック・パラリンピック競技大会が開催され世界中から注目が集まることに加え、東日本大震災からの『復興・創生期間』の最終年である2020 年をターゲットに、洗練された首都圏と東北の復興の二つを同時に世界の人たちに感じてもらえるよう、懸命に取り組むことが必要である。」と位置づけている。
 また、首都圏広域地方計画(平成28年3月 国土交通省)においては、「計画の中間年である2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が予定されている。同大会は日本を世界にアピールする絶好の機会であり、名実ともにその成功を図ることは首都圏にとっての重要な責務である。しかし、同大会以降は首都圏では人口減少が加速すると考えられ、様々な問題に正面から向き合わざるを得なくなる。そのため、同大会を成功させるとともに、それを一つの通過点と捉え、同大会を契機に特に強まると考えられる世界との結びつきをバネとして、人口減少や災害等様々な課題に対応したポストオリンピック・パラリンピックの首都圏像を描くことが重要である。」と位置づけている。
 本シンポジュウムでは、はじめに熊澤より趣旨説明と議論の前提となる首都圏の状況を首都圏整備計画から振り返り概説する。つぎに金子光(みつや)会員に都市政策の観点から、オリンピックの開催を契機とした財政政策について、つづいて松橋達矢会員に都市社会学の観点から中心区部の都市空間の歴史的変遷について、米本清会員に都市経済学の観点からオリンピックの開催を契機とした首都圏の経済効果について報告していただき、テーマである「都市の更新―オリンピック開催を契機として―」を締めくくりたい。

■春季大会印象記

自由報告
平井 太郎(弘前大学)

 今回の研究例会では張修志氏(弘前大学)から「中国における集合住宅管理の今日的課題」、中川雄大氏(東京大学)から「「場末」を見いだす」と題する報告があった。
 まず張氏の報告では、市場経済導入後、増加の著しい中国における集合住宅の管理のあり方について、当初からの管理者主導型から2010年代以降、所有者主導型と呼ぶべきあり方への模索が続く状況が分析された。張氏によれば、中国では当初、香港資本により集合住宅の開発・分譲が始まり、その際の管理業者に委ねる管理者主導型が一般化したという。しかし、管理業者と所有者との本来的な利益相反から管理業者に対する所有者の不満が高まっただけでなく、全所有者による所有者組織の設立が法的に保障されるようになり、所有者が管理業者と少なくとも対等に交渉するあり方の模索が始まっている。他方、老朽化した集合住宅では管理の収益性の低さから業者が参入しづらく、そこでも所有者主導型が模索されつつある。この問題を扱う際、張氏は、経済発展の地域差に目を配り、沿海部に比べ10-20年、経済発展、そして集合住宅の建設も立ち遅れる東北部の中心都市・ハルビンでの事例を掘り下げていた。しかも張氏は、経済発展の「遅れ」を前景化するのでなく、「単位制から社区制への移行期」と位置づけることで、集合住宅管理のあり方を説明する軸を経済から社会の次元に拡張し、老朽化にも拘らずなぜ所有者主導型の管理が成立しえたのか、また、新しいはずの集合住宅でなぜ所有者主導型の管理の模索が始まるのかを説明しようとしていた。この着眼は重要な理論的貢献につながりうると考えられるが、であるがゆえに参加者からも、単位制と社区制と指し示される社会のあり方自体、丁寧に説明すべきと指摘されていた。
 次に、中川氏の報告は、近年の都市研究で20世紀初頭の東京郊外の多様性が着目されている点を批判的に捉え返し、「郊外」が地理的概念だけでなく社会的概念でもある事実を確認したうえで、その際、「郊外」の対として語られる「場末」概念が見落とされてきたとし、社会的概念としての「場末」自体の多義性や変遷に目を向けていた。まず「場末」は、おそらく近世来の用法として、新たに都市に包摂されはじめた場を指し、むしろ階級・階層の混在が見出されていたという。ところが建築・都市計画の国家法制化の過程で、中間層が居住する「郊外」とは区別される都市下層が集住する「不良住宅地区」の一部と規定されるようになり、そうした概念化を前提として「場末」固有の「community」の可能性が見出されたり、逆に、あらためて階級・階層の混在と対立に目が向けられる、当時の「社会医学/社会事業」の視線が現れたりしたという。参加者から「場末」と"inner city"の異同が問われたように――こうした指摘が現れたこと自体、熟考に値するが――「場末」は"inner city"と同様、地理的意味づけが拭いにくい外形を持ちつつ、社会的な意味づけが与えられもする。だからこそ、時期や文脈の異なる複数の語用例を分析的に対比させるより、文脈を共有する語用内や異なる文脈の語用間での交渉や葛藤を記述し直した方が、中川氏が目指す地平を切り拓きうると考えられた。

【シンポジウム】
野坂 真(早稲田大学)

 シンポジウムでは、「都市の更新:オリンピック開催を契機として」というテーマのもと、財政学、社会学、経済学という各分野の研究者3名より報告が行われた後、ディスカッションと総括が行われた。以下、筆者なりの要約と感想を述べる。
 第一報告の「東京2020大会と財政政策―東京五輪(1964年)からの教訓―」(金子光氏・慶應義塾大学)では、まず1964年東京オリンピック前後に始まった財政政策の特徴として、税収が伸び悩むなかでもオリンピックに向けたインフラ整備を進めるためにシーリングを導入したことで、以降の日本における予算配分のあり方が硬直化したことが指摘された。この体制は、2021年現在でも基本的に維持されており、時代変化に合わせ、この体制からいかに脱却できるかが重要な課題となっているという。そこで、会計検査院からのフィードバックが財政政策に反映されること(決算から予算へのフィードバック)が重要となるが、それが上手く進まない現状があることが指摘された。また現在は、①財政の建て直し vs. ②経済の下支えというジレンマ状態に、③新型コロナウイルス対策が加わるトリレンマ状態となっていることも指摘された。
 第二報告の「『首都圏』形成の歴史社会学―『東京都心』の中枢性と先端性のせめぎあいをめぐって―」(松橋達矢氏・日本大学)では、戦後の首都圏における開発政策が、歴史的にいかに調整され推進されてきたか、またそれが2020年東京オリンピックにおける開発手法へとどのようにつながっているかについて報告された。1962年に改訂された「第一次首都圏基本計画」では、都心における「空白」の活用を重視するようになる。その延長で、1964年の東京オリンピックに向けたインフラ整備も進められることとなるが、利害関係の調整が困難であったため、東京湾岸部の埋め立ても行い「空白」を生み出し開発する手法が取られていく。その延長に、2020年東京オリンピックの開発手法も位置づけられ、臨海部での大規模な開発が進んでいったことが指摘された。同時に、各種インフラの耐用年数の限界が迫るなか、臨海部の開発から取り残されていくエリアへの対応をいかに考えるかが重要な課題となっていることも指摘された。
 第三報告の「東京オリンピックと都市の経済―その光と影―」(米本清氏・高崎経済大学)では、世界各国で過去に開催されたオリンピックの経費と経済効果の試算に関する研究のレビューに基づき、メガイベントとしてのオリンピック開催の効果について論じられた。レビューの結果、メガイベントの開催がインフラの整備・更新につながるとは必ずしも限らず、その契機となるかどうかは開催地における前後の状況や政治的な意向に左右されることが指摘された。また、開催される国や都市のタイプによってメガイベントに関連したインフラ整備などの傾向が変わることも指摘された。例えば、中進国・途上国(1964年の東京含む)では、オリンピックが国威発揚やさらなるインフラ整備のきっかけになる。一方で先進国では、いかにして平時における都市の整備計画やSDGs などと調和したオリンピックを行うか、そもそもオリンピックを何のきっかけとして利用するかが、開催をめぐる重要な論点となる。このため、いかに民主的に市民の多様な議論を尊重しつつ成功させるかが重要となっているという。
 総括では、2020年東京オリンピックについて様々な次元の情報が常に飛び交う状況下で国民の多くが混乱している面があるが、開催地の行政職員など現場で働く人々は「負の遺産ではなくレガシーにしたい」という思いがあり、そのためには住民の想像の原点に立ち戻ることが重要といった視点が示された。
 筆者は2011年に東日本大震災が発生して以降、主に岩手県および宮城県の津波被災地域でフィールドワークを10年間続けてきた。その中で、「復興五輪」と銘打ちながら、首都圏での工事を急ピッチで進めるために、復興工事の資材や人員を被災地域から奪っているのではないかといった声を現地で何度か聞いたことがある。これは統計情報などを客観的に分析した結果によって裏付けられる言説ではない。しかし、当事者目線では、自分たちの苦境が外部の権力者に都合の良いように使われているという気持ちを、特に復興工事の遅れが問題となっていた2015年ころには持っていた人も少なからずいたことは事実である。そのため、第三報告にて提示された、メガイベントの開催に際しては「いかに民主的に市民の多様な議論を尊重しつつ成功させるかが重要」という視点に首肯できた。この視点がなければ、多額の費用を投じて準備したメガイベントは、「レガシーではなく負の遺産」となってしまうのではないだろうか。今回のシンポジウムでは比較的マクロな視点での議論が多かったが、過去に開催されたメガイベントが、その開催地の住民やスローガンに関わる当事者にとってレガシーとなっているかどうか、またどのような条件があれば当事者はレガシーとして納得できるようになりやすいのか、といったよりミクロな視点でも再度検討してみたいという印象を持った。

 
2020年度第2回研究例会 オンライン開催のご報告】

開催日時:2021年3月21日(日) 15:00~17:00
開催方法:ZOOMミーティングによるオンライン開催

報告1 「大卒者の三大経済圏への移動と「つて」―現代中国東北部H省の事例から」
翟 涛(弘前大学大学院地域社会研究科)

報告2 「都市の中心から言葉が消える・改」
杉平 敦(帝京大学)


■研究例会自由報告印象記

伊藤 雅一(茨城大学)

 第一報告は、翟涛会員による「大卒者の三大経済圏への移動と『つて』―現代中国東北部H省の事例から」であった。「『パーソナル・ネットワーク/社会関係資本/家族・親族ネットワーク』概念を一括して『つて』」とし、「大学定員拡大後の東北地方H省出身者について、これらの要因がどのように作用しているのか」に注目し、「省外に就職した大卒者の就職地及び就職先の選択」における「つて」の活用状況や作用を明らかにする報告であった。
分析の対象は「中国東北地方H省出身大卒者22名に対するインタビュー調査のデータ」であり、「つて」有り+「つて」活用(2人)、「つて」有り+「つて」不活用(10人)、「つて」無し+「つて」不活用(10人)の3グループに大別することで検討を進めた。
 検討の結果、省外に展開する「親や親類の「つて」」の場合、省外就職に親や親類が影響を与えていることがレアケースであること、省内にとどまる「親や親類の『つて』」は、活かされずに大卒者本人の「つて」(大学の友人など)によって省外就職をすること、省内に「親や親類の『つて』」がない場合は、そのことが大卒者の省外就職を後押しし、家族全体が省外移住をするケースが明らかとなった。
 第一報告を受けての質疑では、「つて」の概念設定の妥当性や「つて」概念の使用によって示そうとしたこと、中国国内の戸籍制度や「つて」の受けとめ方に関する質疑が行われた。
 報告や質疑を受けて、「つて」を地域間移動の契機とみるのか、大卒就職の戦略としてみるのかという2つの見方がある印象を受けた。前者は都市研究、後者は教育社会学における家庭の文化的環境に関する研究(例えば、小内透2005『教育と不平等の社会理論』東信堂)や、進学や就職による移行研究(例えば、苅谷剛彦/本田由紀編2010『大卒就職の社会学』東京大学出版会)が思い浮かんだ。概念設定の内包と外延、インタビューデータとの対応など、改めて考える機会となった。

 第二報告は、杉平敦会員による「都市の中心から言葉が消える・改」であった。冒頭で、今回の報告は以前の発表(2020年9月19日研究例会)でのやり取りを受けて再構成したものであると説明があった。本報告における「言葉が消える」とは、「言論や対話が成立しなくなる状況」であるとし、この具体例として「1960~70年代の東京における2つの出来事」(丸の内「美観論争」と新宿「フォークゲリラ集会」)が挙げられた。前者の出来事は、美観をめぐる論争が「論争や協議の『土俵』そのものを根こそぎ失わせるような動き」(都知事が天皇にご意見を伺ったことを「恐れ多い」行為とした反応)によって終結を迎えた出来事であった。後者の出来事は、「広場」から「通路」への改称をすることで通路の通過を強制的に促した(集会を阻止した)出来事であり、「『広場はどうあるべきか』という議論の『土俵』そのものが失われた」出来事であった。
 2つの出来事の検討の後、これらの出来事の時期に来日していたロラン・バルトの日本論(L'empire des signes)を取り上げ、2つの訳本『表徴の帝国』(宗左近訳、新潮社、1974年)と『記号の国』(石川美子訳、みすず書房、2004年)の検討が行われた。具体的には、‘la parole (avec les agoras: cafés et promenades)’の翻訳を「言語性(カッフェと遊歩道をもつ広場が代表)」(宗左近訳)、「言葉(カフェや歩行者天国の広場がある)」(石川美子訳)とするのは誤りで「実際には、『アゴラ:カフェや遊歩道』なので、『アゴラ=カフェや遊歩道』」とするべきではないかと提起された。
最後に、本報告の狙いは、「バルトの言葉に触発されながら、『都市の中心から言葉が消える』という現象」を描き出すことであり、「かつて都市に『自由な言論の場』という役割が期待され、現実の都市において実践が試みられた時代があったことは事実で、都市に関わる研究者はそれを忘れてはならない」と述べて終えた。
 第二報告を受けての質疑では、日本における公共空間での議論のあり方、グランドビジョンの有無と論争の関係、論争における保守と革新の変遷などが質疑された。
 報告や質疑を受けて、言語の意味は、ある規則に沿った言語の使用「言語ゲーム」によって成立していると考え、言語の使用という事実に重きを置いたヴィトゲンシュタイン(1953=2013丘沢静也訳『哲学探究』岩波書店)や、19 世紀以後に「人間」の概念が成立したと論じたフーコー(1966=1974渡辺和民・佐々木明訳『言葉と物―人文科学の考古学』新潮社)を思い出していた。「自由な言論の場」(アゴラ)が消えるではなく、「言葉が消える」であることを受け、(第一発表と同じく)内包と外延について改めて考えた。


2020年度秋季大会 オンライン開催のご報告】

開催日時:2020年12月5日(土) 13:30~17:00
開催方法:ZOOMによるオンライン開催
大会テーマ:
「晴海(選手村)のまちづくり~東京2020大会からポストコロナへ~」

主催 関東都市学会、後援 東京都中央区

■大会スケジュール
13:30~15:30 シンポジウム

司会・進行】 熊澤健一(関東都市学会研究活動委員長)
【開会挨拶】 大矢根淳(関東都市学会会長・専修大学)
【報告】
金子光(慶應義塾大学)
「東京2020大会とEvidence-Based Policymaking」
早川秀樹(中央区企画部参事オリンピック・パラリンピック調整・特命担当)
「東京2020大会決定からの中央区の取組」
吉田不曇(中央区副区長)
「ポストコロナのまちづくり」
【ディスカッション】
金子光、早川秀樹、吉田不曇
【総括】
大矢根淳

16:00~17:00 2020年度総会

■2020年度秋季大会開催にあたって
関東都市学会会長 大矢根淳(専修大学)

 このコロナ禍の日々、学会員の皆様におかれましては不自由なかなかにも様々に工夫しつつお過ごしのことと思います。
 今年度も例年のように秋季学会大会を開催いたします。しかしながらこの状況下、従来とは異なる形式での開催とさせていただきますので、その点、お知らせいたします。
 今年度大会は、オンライン開催といたします。例年のような同日のエクスカーションと懇親会は行わず、オンラインでのシンポジウムを開催します。シンポジウムの詳細につきましては、以下のご案内文をご覧ください。
 シンポジウムテーマは「晴海(選手村)のまちづくり~東京2020大会からポストコロナへ~」で、東京都中央区役所において同事業に携われている方々にご登壇いただき、議論いたします。学会員の皆様にはオンラインのみで参加いただくこととします。
 特異な環境下での大会運営となりますが、学会員の皆様におかれましては、どうかご理解・ご協力をよろしくお願いいたします。

■秋季大会 シンポジウム解題
熊澤健一(研究活動委員長)

 本大会は、東京2020大会の開催が都市や社会に与える多面的な影響に関する考察として、本年7月開催を前提に春季大会(5月)におけるシンポジウム企画と一体をなすものとして企画された。
 疫病(新型コロナウイルス)の世界的感染拡大を受け、オリンピックの開催は2021年に延期となった。しかし、オリンピックの開催そのものが都市や社会に対して決定的な影響を与えるものではなく、誘致から開催に至る時間軸において都市政策・都市計画及び施設整備などに決定的な影響を及ぼしていると考えている。
 また、オリンピックの開催には施設整備にとどまらず多額の費用負担が必要であり、開催地域のインフラ整備も大規模に進められる。
 それゆえ、国家や自治体のみならず企業や地域住民などの主体が多大な影響を受け、開催都市のみならず社会のありようそのものも変容を迫られる。
 1964年開催の「第18回オリンピック競技大会東京都報告書」(1965.3.31)によれば下記の記述のように総括されている。「オリンピック東京大会準備対策のために各般の事業が実施されて来たが, これら準備対策事業の大部分は首都圏整備事業に包含されている」「オリンピックを契機として,本来首都東京の過大都市の弊害是正が主眼である首都圏整備事業が大いに促進されたものとみることができる」(p.142)としている。
 上記のようにオリンピックの開催が都市における一過性の大規模スポーツイベントの域にとどまらず、首都圏整備事業の促進を通して都市の更新に大きな影響を与えたことが理解できる。
 本大会の開催テーマである中央区晴海地区の土地利用とオリンピックとの関連は、1930年代の埋め立て以降、物流地区として位置づけられてきたが、東京オリンピック(1964年)の開催に合わせ1964年4月に晴海客船桟橋として供用が開始され、開催期間はオリンピック宿泊船に利用された。
 2016年のオリンピック誘致(これは失敗に終わった リオデジャネイロで開催された)に際し、コンパクトな開催を目指した誘致方針に沿って中心施設(陸上競技場)が計画され、周辺に主な競技施設・選手村を整備するとするオリンピック開催時の中心地としてあった。
 引き続き2020年のオリンピック開催を目指した誘致活動において、施設整備計画は大幅に変更され開催決定に至った。
 東京都は「東京オリンピック・パラリンピック2020」の開催決定を受けて晴海地区に整備される選手村が、東京オリンピック・パラリンピック競技大会後、住宅等としての活用を予定していることから、2014年12月に「選手村 大会終了後における住宅等のモデルプラン」を策定した。その後モデルプランを基にレガシー委員会等で議論が進められ、2015年12月に「2020年に向けた東京都の取組―大会後のレガシーを見据えて―」を策定し、2016年3月豊洲・晴海開発整備計画における開発フレームや土地利用計画等の一部を変更して工事に着手した。
 本大会では、上述したようにオリンピック・パラリンピックの開催が晴海地区のまちづくりに及ぼした影響と、建設された選手村=大規模な住宅群整備に至る政策決定過程及びその後のまちづくりの展望について早川秀樹参事、吉田不曇副区長より報告をいただき、金子光氏を交えオリンピック・パラリンピックの開催がまちづくりにもたらした様々な影響について議論を深めていきたい。

■秋季大会印象記
宝田惇史(関東都市学会会員)

 今回の研究例会は、自宅からZOOMを通して参加させていただくことになった。距離や移動時間の問題を乗り越えて参加できるのは、大変有り難いことだった。
 金子光先生(慶應義塾大学)によるご報告「東京2020大会とEvidence-Based Policymaking」、早川秀樹氏(中央区企画部参事オリンピック・パラリンピック調整・特命担当)によるご報告「東京2020大会決定からの中央区の取組」、吉田不曇氏(中央区副区長)によるご報告「ポストコロナのまちづくり」の三本と、質疑応答が行われた。
 東京オリンピック・パラリンピックの選手村を抱える、中央区の現状と展望について、研究者と実務家の双方から、詳細なお話をお聞きした。今回の議論の対象地である中央区の晴海周辺は、以前実際に歩いたことがあり、とても興味があった。現場で色々な課題に日々取り組んでおられる、中央区役所の実務家のお話を伺うことができ、大変貴重な時間をいただいた。
 晴海地区は、近年でこそ大規模な再開発が進み、マンションも多く建てられている。しかし、従来は倉庫が中心だった場所であり、住宅地としての歴史が浅いことが特徴でもある。こうした街の歴史をふまえて、単純に住宅地だけにするのではなく、単一世帯ばかりの街にもならないようにすることを意識しているという。そのため、大学誘致などによって常に若い世代が流入する工夫をし、世代を越えて継承されるバランスのとれたまちづくりを目指していることがわかった。
 まちづくりを理解するためには、その街の歴史を見ることが不可欠であろう。今回は、1990年代にさかのぼって、晴海地区の歩みを理解することができた。特に、東京23区に清掃業務が移管され、それぞれが清掃工場を持つことが求められるようになった時と晴海地区のまちづくりが密接に関わっていることは、意外であった。
 また、2021年に開催が延期された東京オリンピック・パラリンピックの選手村が建設される晴海地区における交通政策の課題についても、興味深い話が語られた。晴海地区は、最寄りの駅からやや離れており、現在は路線バスに頼る人も多くいる地域である。オリンピック・パラリンピックの関係者や観客をどのようにして輸送するのか、個人的にも大変興味を持っていた。
 これについては、1990年代から基幹的交通システムの計画を中央区として持っており、具体化を目指してきたことなどが語られた。そして東京都により、2020年の「東京BRT」暫定開業に至るが、現在は、バス優先道路などはなく、右折の際などには長時間の信号待ちも余儀なくされる。こうした問題については、交通管理者(警察)との協議などを頻繁に行わなければならず、東京都行政の縦割りの問題などの壁にもぶつかり、困難な状況にあることがうかがえた。
 新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るう中で今後の展開が不透明であるが、オリンピック・パラリンピックに向けて、区役所の行政としては日々淡々と前に進んでいかなければならないという覚悟や苦悩が、よく伝わってきた。特に、質疑応答の時間の際に丁寧に対応してくださり、行政の本音を語ってくださった吉田副区長をはじめとする中央区役所の皆様と、今回のオンライン大会をご準備くださった関東都市学会の研究活動委員会・事務局の皆様に心から御礼申し上げたい。そして、今後も実務と学術研究の間により良い関係が構築され、現場の問題解決に少しでも貢献できることを一会員として心から願っている。

 

【2020年度 第1回研究例会 オンライン開催のご報告】

開催日時:2020年9月19日(土) 15:00~17:30
開催方法:ZOOMミーティング

報告1 都市の中心から言葉が消える
杉平 敦(帝京大学)
       
報告2 戦後パブリック・アートによる地域づくりの「理念の形成過程」に関する一考察
柴田 彩千子(東京学芸大学)

■研究例会印象記
浅野幸子(早稲田大学)

 第一報告は杉平敦会員による「都市の中心から言葉が消える」であった。ロラン・バルトが、西欧の都市では中心に精神性(教会)、権力(役所)、金銭(銀行)、商品(デパート)、言葉(カフェや歩行者天国の広場)といった文明の価値が集中し凝縮した場所があり、社会の「真理」に触れ、「現実」のすばらしき充実ぶりをわかちあう場となっているのに対し、東京の中心は人が立ち入ることが許されない皇居という中心の周囲に円を描いて都市が広がっており、空虚であると評したことに着想を得て、1960~70年代の丸の内の「美観論争」と新宿「フォークゲリラ集会」という二つの事例を取り上げ、都市と言論の関係について提起した内容である。
 前者は、1966年に東京海上火災保険(株)が高さ127メートルの超高層ビルを皇居堀端に建設する計画を発表したことから、その是非について大論争となったものだ。大きくは保守派(軒高が100尺に揃えられた街並みの統一感と皇居への配慮を重視。東京都建設局、佐藤保守政権など)と革新派(美観や街並みを時代に合わせて作り替えることに前向き。建築家集団、美濃部革新都政など)の対立となったが、最終的には皇居が覗けてしまうことが恐れ多いか否かに論点が集約され、(天皇が迷惑ではないと述べたことも受け)皇居から見て一定の角度内に収まる高さに引き下げることで建築認可へ至った。杉平会員はこの事例を、論争や協議の「土俵」そのものを根こそぎ失わせるものであり、「勝った言葉と負けた言葉があるのではなく、そもそも言葉そのものが消えていった」と表現した。
 後者は、1969年に、完成から数年の新宿駅西口広場に若者たちが集まって自然発生的に行われるようになったもので、非暴力的・イデオロギー的表現の自由をもとめた。これを当局は道交法を適用し、広場から通路とすることで活動を止めさせようとしたが、杉平会員はこれを「広場でなく通路であるという言葉の上の操作で、広場がどうあるべきかという議論が消された」と表現した。
 参加者からは当時の状況を振り返り、この時代ぐらいから議論が起きてもあえて争点化しないという選択が出てきたと感じる/再開発において高さ制限でなく容積で変えて行くのだという強い意思が建築関係の人たちの中にあったように思う/建築はデザインそのものが言葉であると言われてきたが、そういうものが抜けて高さへの議論になっていった/新宿西口広場は大学紛争と結びついていったが広場・都市のありようを若い学生たちに考えさせる役割を果たしたと思う(広場の意義や市民とはといった議論が盛んにおこなわれた)、といったコメントがあった。
 報告の論点は、公論形成の場としての空間の価値の問題か、都市をめぐる権力の問題かなどと考えながら報告をお聞きしたが、両者を視野に入れつつ、都市をめぐる幅広い議論の意義について改めて提起されたものであったと感じた。
 第二報告は、高度経済成長時代の中央集権への地域の抵抗、地域主義の時代を研究しているという柴田彩千子会員による、「戦後パブリックアートによる地域づくりの「理念の形成過程」に関する一考察」である。1980年代以降全国的に広がりをみせた彫刻のあるまちづくりの先がけとして、1970年代初頭に市民主導により始まった岩手町国際石彫シンポジウムの活動を事例として取り上げ、取り組みの創始者(斎藤氏)の人物像およびその時代背景と地域構造を踏まえ、パブリックアートによるまちづくりの源泉となった理念形成の背景に迫ることを目的とした報告であった。
 沼宮内町(現・岩手町)の名望家の家系でもある斎藤氏は、東京の大学で美術を学び家業を継ぐため帰京した人物で国際感覚も持つ洋画家であり、1957年には東北最大の美術家集団エコール・ド・エヌの創始者でもある。
 石彫シンポジウムは、海外で生まれた芸術運動で、「石切り場における芸術」を提唱したプラントルは、芸術家のエゴイズムを克服するユートピア的共同体をこのシンポジウムに見出し、アートの公共的性格を提起したが、1960年代には運動は国際的に広がったという。
1973年にエコール・ド・エヌが岩手町と共催で東北初の「石彫シンポジウム」を開催し、他の文化活動にも影響を与えたという。シンポの方針として、将来的には町に作品を寄贈の上、公園設置の折に生かす、行政との共催は、行政の文化面の認識喚起と地域住民の芸術の関心を高める、素材は町産出の黒御影石などを使用する、といったことを明確にし、あくまで公益のためであることを明示して取り組んだ。
 その後、第12回の開催前に斎藤氏が亡くなり、実行委員会方式になるなど、推進体制に若干の変遷がありつつも、現在にいたるまでシンポジウムは開催されている。その経過の中で、1993年には岩手県初の野外彫刻美術館として、「石神の丘美術館」が開館し、2002年には隣接地に同名の道の駅が開設されている。現在は経緯を知る住民が少なくなったが、美術館のある一帯は公民館もあり、地産地消などの発信も行われるなど、地域の拠点として機能しているという。
 最後に、このような長年にわたる取り組みを支える、地域づくりの理念形成に大きく貢献したキーパーソンである佐藤氏の特性について、確固たる理念を持っていた上に、自立した存在で既存の価値から自由に行動できたこと、地域の風土的個性・伝統も重視しつつ創造性を発揮させたこと、周囲への啓発・学びへの誘導といった形で指導力を発揮したこと、地域外とのネットワークを持ちそれを活かした点等について言及があった。
参加者からは、彫刻に力を入れている他の地域の事例もあがったほか、自治体がそうした活動を支える場合のアートのとらえ方、一般性を指向する公共とむしろ一般性を超えようとするアートの関係、単に集客のためのフェスティバルとして実施されるアート系イベントとの相違といったことに関して発言があった。
 すべてについて議論することはできなかったが、担い手たちへの着目により、それぞれのパブリックアートの意義について、空間はもちろん地域づくりの文脈の中で捉え返すことの重要性は認識できた。とはいえ、担い手の思いを伝え、その空間を意義あるものとして継承していくことは容易ではないであろう。観光資源化するにとどまらない、地域の教育活動・文化活動の中に生かされるアート空間として、日常的に住民が様々な形で触れ合える場であることが不可欠と思われるし、そのためには行政が文化政策の理念をしっかり持ち、質のよい活動を市民と協働で創出しようとする姿勢を常に持ちつづけることも重要であると感じた。


 【2020年度 春季大会、理事会・各委員会中止のご報告】

 新型コロナウイルスの感染予防対策の必要性を踏まえ、2020年5月23日(土)に開催を予定していました「関東都市学会 春季大会」および同日に開催を予定していました「関東都市学会理事会・各委員会」を中止といたしました。
 また、同日に開催を予定していました2020年度の総会は、秋季大会の際に延期する方向で調整しております。2019年度決算のご報告とご承認が遅くなり、また2020年度の事業計画および予算など一部事後承認をお願いすることになる事案も生じて参りますが、新型コロナウイルスの感染予防対策の必要性を踏まえた緊急対応でありますことから、学会員の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
 なお、今般の春季大会の研究報告予定者へは、対応につきまして事務局より個別にご連絡を差し上げます。




【2019年度第2回研究例会(2020年3月14日(土))中止のご報告】

 新型コロナウイルスの感染予防対策として、2020年3月14日(土)に開催を予定していました「関東都市学会 研究例会」および「関東都市学会理事会・各委員会」を中止といたしました。なお、予定されていた自由報告のうち、申請があった「省内に残る大卒者の就職地選択と親世代の社会関係―中国東北地方H省出身大卒者事例を中心に」(翟涛(弘前大学大学院))については、報告用資料を厳正に審査した結果、例会での報告を行ったと同等の実績であると認定いたしました。



【2019年度 関東都市学会秋季大会を開催しました】

■ 日時: 2019年12月14日(土) 13:00~17:30

■ 会場: 国立市役所3階大会議室 (東京都国立市富士見台2-47-1

■ 大会テーマ:
「都市の更新―郊外地域国立市のこれまでとこれから」

■ 大会スケジュール:
12:30 会場集合・受付開始(会場:国立市役所3階大会議室)
13:00~14:30 国立市富士見台地域まち歩き(大会議室集合)
案内中道洋平・布施裕二(国立市都市整備部)

14:40~15:50 「国立市富士見台地域におけるまちづくりの取り組みについての報告」
【司会・進行】小山弘美(関東学院大学)
【開会挨拶】関東都市学会会長 大矢根淳(専修大学)
解題小山弘美(関東学院大学)

【報告】
・布施裕二(国立市都市整備部)
「(仮)富士見台地域重点まちづくり構想」策定に向けた取り組み
・祐成保志(東京大学)
「まちづくりの重層的な文脈」
・井上拓央(東京大学大学院)・真鍋陸太郎(東京大学)・後藤智香子(東京大学)
「場所の価値から見た富士見台地域」
・安富啓(株式会社石塚計画デザイン事務所)
「市民とともに考える富士見台地域のまちづくり―協働の現場から」

16:00~17:30 ディスカッション「国立市の今後の50年を考える」
【コメンテーター】
大矢根淳(専修大学)
小泉秀樹(東京大学)、竹内光博(国立市副市長)

18:00~20:00 懇親会

・会場:「くにたち野菜工房 中道カフェ」
 JR南武線矢川駅徒歩1分 (東京都国立市富士見台4-12-11)
・参加費:一般会員6000円、非会員・非常勤・PD・学生3500円(予定)

■解題
小山弘美(コミュニティアセスメント研究会・関東学院大学)
 人口減少社会へ突入した日本では、都市が大きく拡大した高度経済成長期とは逆に、都市の縮退がどのような形で起こっていくのか、そしてそれをどのようにコントロールできるのかが問題となっている。一極集中と言われる東京都でさえも、2030年代以降は人口が減少していくものと予測されており(国立社会保障・人口問題研究所)、人口規模が大きいだけにその影響は計り知れない。都市はこれまでの50年で大きく拡大してきたのであり、今後の50年で縮小していこうとしている。
 関東都市学会では、これまでの2年間「リノベーションまちづくり」をテーマとして取り上げてきた。新しい世代・人びとが、中心市街地の古い商店などをリノベーションし、別の業態へと変換させるなどして、まちの再活性化に取り組むものであった。これまでのような大規模再開発などによらず、小さなエリアがリノベーションされていく手法は、都市の縮退時代の、中心市街地における更新プロセスの一例として受け取ることができた。この成果を受けて、今大会では郊外地域における都市の更新について国立市を事例に考察することにしたい。
 都市の拡大の過程で膨らんだ郊外では、農地が急速に住宅地へと様変わりし、1955年には日本住宅公団が設立され、団地が次々と建設されていった。それから半世紀以上が経過し、郊外地域は岐路に立たされている。地域が開発されると同時にその多くが移り住んできたため、これらの人びとが一斉に高齢化してしまう。住居の形態も核家族を基本としており、子世代が他出することで、高齢夫婦のみもしくは高齢者単独世帯となる。子世代は、都心に通うのに便利な場所に移っていることが多く、親世代が亡くなった後に空き家となるケースも多い。こうした状況に加えて、開発された時期に一斉に都市整備がなされたため、公共的な施設や住宅の更新が同時に必要な状況となっている。
 国立市は、1920年代の戦前の郊外開発も経験し、戦後も団地建設による開発によって発展した典型的な郊外地域である。国立市の北部は大正期に箱根土地株式会社によって開発され、1927年には現在の一橋大学が誘致され、戦後は文教地区の指定を受けた。「文教都市」国立の様相そのままといえるような地域である。一方南部は元の谷保村の中心であり、甲州街道と谷保天満宮を中心に古くから栄えていた地域である。その北部と南部に挟まれているのが、公団住宅建設により地域が開発された富士見台地域である。日本住宅公団により農地区画整理がなされ、1965年に国立富士見台団地が完成し、2357戸が入居した。その2年後に谷保村から国立市となったのであり、団地建設は富士見台地域の開発を牽引しただけでなく、国立市発展の契機ともなったといえる。
 現在、富士見台地域が開発されてから50年以上が経過し、土地区画整理によって住居を構えた世帯は世代交代しつつあり、転入して新居を構える人びともいる。一方団地は建替えが問題となっている。富士見台地域内に1970年に建設された都営矢川北アパート(団地)はすでに順次建替えが進んでいる。URは2007年に「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」を策定し、国立富士見台団地においても、団地自治会、国立市、URの三者で10年以上にわたり団地の今後を話しあうための懇談会を開催してきた。またこの地域は、市役所を始め公共施設や教育・文化施設が集積しており、これらの再編のあり方についても検討する時期に来ている。
 国立市ではこうした状況を踏まえ、2014年度に庁内横断的な検討会を設置し、2015年度に住民参加の「富士見台地域まちづくり勉強会(まち歩き)」を開催して、市民とともにまちづくりについて検討していく機運を高めた。その後もワークショップ形式の懇談会を開催して市民の声を集めたうえで、2017年度に「富士見台地域まちづくりビジョン」を策定した。2018年度からは「まちづくりビジョン」を具体的な計画に落とす「(仮)富士見台地域重点まちづくり構想」策定に向けて3年間の取り組みが進められている。この過程は、市民を中心に据えながら、国立市と多分野にまたがる研究者のチームが協働して、研究会で検討を行いながら進められている。
 都市学会では、設立当初から行政と多くの分野にまたがる研究者が課題や研究を共有することによって、「都市」の現状や展望を考察してきた。国立市の試みは「都市学」にとっても重要な試みと捉えることができる。そこで、本大会においても、住民、行政、多分野の研究者が国立の地に参集し、国立市が郊外都市として発展してきたこれまでの50年を総括し、今後の50年を考えることにしたい。

(主催:関東都市学会、後援:国立市)
※本大会は国立市の市民・行政と協働している研究者のチーム
「コミュニティアセスメント研究会」の協力を得て開催した。

■大会印象記

真鍋 陸太郎(東京大学大学院工学系研究科)

 2019年12月14日(土)12時より国立市役所第1会議室にて、関東都市学会2019年秋季大会が開催された。私は残念ながら関東都市学会の会員ではないが、国立市富士見台地域のまちづくりにコミュニティアセスメント研究会(研究代表者・小泉秀樹東京大学教授)の一員として関わっていることもあり、この秋季大会に参加させていただいた。
 大会の印象記の前にコミュニティアセスメント研究会(以下、研究会)について簡単に紹介する。本研究会は、都市計画・まちづくり分野、社会学分野、福祉医療分野といった多様な専門性を持った研究者で構成された研究会で、様々な専門的視点から、さらにそれら異なる専門的知見の組み合わせから、地域課題の解決を総合的・横断的に求める方法論を検討し、具体的な対象地を定めて実践していく研究会で、2018年度からは国立市との共同研究として、富士見台重点まちづくり構想の策定に向けて、具体的・実践的な取り組みを進めている。本大会でも国立市都市整備部の布施裕二氏から紹介があったように、富士見台地域は国立市にとって行政の中心地であり、また富士見台団地の形成とともに市制が成立したことからも分かるように市を象徴する地域でもある。市役所の他、多くの公共施設が集まっていたり、多くの公園が整備されていたり、快適な都市的な生活を体現している国立市においてももっとも充実した優れた住環境を有している。一方で、公共施設や団地の老朽化は公然の事実であり、どのような方法で優れた住環境を守りながら、地域の再編を実現できるかという高度な課題を抱えている地域でもある。
 さて、秋季大会では、大矢根淳学会長からの挨拶ののち、前述の布施氏より富士見台が開発された当時、すなわち昭和40年ごろの写真も交えながら富士見台地域の説明があった。現在とは全く違った50年前の風景は改めて時間の長さを感じさせるものであった。富士見台地域全体を歩くには用意された時間では十分でないことから、参加者に自由に選んでもらう形で西ルートと東ルートの見学ルートが設定された。布施氏に加え、同都市整備部の中道洋平氏のお二人で各ルートが引率された。本大会の特徴でもあるが、富士見台地域のまちづくり活動の1つである、まちづくり協議会や富士見台ミーティングのメンバーにも本大会の開催を案内したことから、何人かの地域の方々の参加があり、地域に暮らす市民ならではの非常に有意義な話を聞きながらの見学となった。
 会場に戻り、解題・報告となった。解題は本大会の企画に尽力し、また研究会メンバーとして主として富士見台団地の自治体活動についての研究を進めている小山弘美氏(関東学院大学)から、既述したような本地区の現状と課題についての紹介があった上で、本日のテーマが「郊外住宅地の更新」であることが改めて確認された。続いて、布施氏(前述)より本地域でのまちづくりの取り組みについての紹介があった。この取り組みが、国立市・市民・専門家の3者によるものであること、また市民の参加の場として、重点構想の取りまとめの場となる「まちづくり協議会」と、市民に開かれ構想に必要なテーマを検討・議論する場である「富士見台ミーティング」という議論・参加の場を用意した取り組みであることなどが紹介された。次に、研究会メンバーでもある祐成保志氏(東京大学)から団地における活動の歴史的変遷についての社会学研究としての成果が発表され、現在の争点が、URのストック活用、再生ビジョン構築、UR資産の良質化などであり、地域活動の連鎖として地域資源としてのソーシャル・キャピタルが蓄積してきたことが考察され、さらには異なった背景を持つ地域の混在を背景とした富士見台地域のガバナンスのあり方を問う必要があることが提示された。 次に、井上拓央氏(東京大学)からは都市工学的視点から、「場所の価値」というこれまでの都市計画やまちづくりで取り上げることが少なかったアプローチから富士見台地域を把握する取り組みについて、関連他分野の研究レビューや技術論的な試行が紹介された。アンケート調査とAIによる画像認識との組み合わせによって、どのような場所がどのような価値を持つかの推定モデルによる結果が提示され富士見台地域でもっとも重要な要素の1つであろうと思われているさくら通が様々な価値を持つと推定されたことは興味深い。 最後に、富士見台地域のまちづくりでワークショップの場のデザインなどを担当している安富啓氏(株式会社石塚計画デザイン研究所)から、上述のまちづくり協議会や富士見台ミーティングでどのような参加の「場」をデザインしているか、またその場からどのような地域資源が把握できたかが具体的な内容を示しながら報告された。前述の井上氏の研究から把握された場がワークショップの現場でも同様な意味を持って挙がっていたことは特筆に値するだろう。安富氏も研究会に参加しており研究者と実践者との強い連携が実現しているのも当地域のまちづくりの特徴でもある。
 さて、解題・報告のあとは休憩を挟みディスカッションとなった。ディスカッションのコメンテーターとして、大矢根会長、竹内光博国立市副市長、小泉秀樹東京大学教授が登壇し、まずはコメンテーターからの感想が述べられた。大矢根会長は国立高校出身であり幼少期・青年期を本地域で過ごした「地元枠代表」でもあるが、安富氏の報告にあった「谷保第五公園の周辺には庭の花が綺麗な住宅が多い」という事例をとりあげ、例えば庭にプランターを置くようなことで結果的に防災効果があるガーデンプロジェクトが災害社会学の専門家としての視点から紹介された。竹内副市長からは、本日の報告の1つの要点は質をどのように捉えていくかというアプローチであるとまとめられるが、質の評価は伝えづらく、また質のありようを表現する方法も難しいもので、これは国レベルではわかりづらいものでも、コミュニティレベルではわかるものになり共有することが可能だという論考が展開された。小泉教授は前述のとおりコミュニティアセスメント研究会の代表でもあり、研究会では、場所の価値・意味のまちづくり・都市計画を実践できないかと考えて社会学や医療・福祉の専門家とも協力して学際的に進めていることが話された。変わっていく街へ「価値」をどのように当てはめていくかが論点であり、Place Making(プレイスメイキング)あるいはPlace Based Planning(プレイスベースドプランニング)が重要なキーワードであることが提示された。
 ディスカッションではコメンテーターや報告者のほか会場とのやりとりも活発であった。中でも、今大会のもっとも特徴的な点が地域住民からの発言であった。UR団地についての著作もある多和田自治会長からは、地域の議論というものは当事者として参加させるという形でディスカッションしていかないと到底合意には達しないということが指摘され、また文化的に過ごしたいとの思いから国立市に戻ってきたという清水氏からは団地開発から50年が経ったいまは変革の大きなチャンスではないかという意見も出された。その他、ディスカッションでは、富士見台でのまちづくりの活動や研究会の意味・意義について、富士見台地区が広域交通の視点から見ても非常に恵まれた状況にあること、公団住宅の家賃が他地域に比較して若干高いこと、などが議論・意見交換された。最後に、大矢根会長から、学会としてのまとめとして、「ローカルの知をオーソライズしていくと法制度ができていくということにロマンを感じる」と述べられ、秋季大会は幕を閉じた。
  なお、私は大会後の懇親会にも参加させていただいた。大会から懇親会を通じて、国立市での実践と、今後の研究上の視点について多様なご示唆・ご助言をいただいことに感謝することを最後に記して本印象記を閉じることとする。


安藤 克美(山梨県庁)

 国立市富士見台地域でのまち歩きの後、国立市役所において、報告及びディスカッションが行われた。最初に、進行役である関東学院大学の小山弘美会員から、人口減少時代に、郊外地域の都市がどうなっていくのか。50年前に開発され、公共施設も集まっている富士見台団地では住民を中心に研究者と協働した検討が進められており、今後の50年を考えたい、という今回の趣旨について説明がなされた。
 続いて、4名から報告が行われた。国立市役所都市整備部の布施裕二氏からは、国立市は面積が8.15km2の小さい市で、その中心の富士見台地域に公共・公益施設が集積している。公共施設の再編、大規模団地と一体的に取り組むまちづくりの推進等が課題であるとの話があった。続いて、東京大学の祐成保志会員からは、まちづくりの重層的な文脈として、団地においては自発的なコミュニティが形成され、「市民意識」が高いとされた。東京大学大学院の井上拓央氏からは、まちづくりにおける「場所」への注目として、プレイス・ダイヤグラム等の考え方が紹介され、さらに場所の価値のマップへの落とし込みや、定量的な分析方法として、画像認識アプリによる方法が紹介された。株式会社石塚計画デザイン事務所の安富啓氏からは、市民が参加した富士見台ミーティングの中で、場所の価値の評価作業の様子が紹介された。
  引き続き行われたディスカッションでは、コメンテーターとして、本学会の会長である専修大学の大矢根淳会員、東京大学の小泉秀樹氏、国立市副市長の竹内光博氏から意見をいただいた。最初に、大矢根会員から、自身も国立周辺に住んでいた経験から、自分の記憶を研究上の概念で説明できるか確かめたとの発言があった。続いて、竹内氏から、国立市は甲州街道南部、国立駅周辺、富士見台と分かれているイメージはあるが、交流があり、かけ合わさっている状態である。小泉氏からは、今は新しい物をつくる時代ではない、住んでいる人が場所の意味を見いだしていることを前提としてく必要があり、これを街づくりにどう活かしていくか、どう都市計画に落とし込んでいくかチャレンジグな取り組みであるとの意見があった。
  報告者以外の意見としては、戸所会員から、よい状態がいつまで続く(直下型地震も予想されるなか)という想定でよいのか。多和田自治会長から、住民へのヒアリングでなく、当事者として参加させるのが良い。他の住民の方から、国立市は講座やコミュニティが充実しており、成熟した大人向きで満足しているが、色んな人の意見を聞くべき、安藤会員から、場所の価値の手法は、郊外や小都市のような車社会でも適用可能との指摘・質問があった。これに対し、小泉氏から、住民へのヒアリングの際にアウトリーチ活動をやり続けており、これは全員参加と同じである。また、移動手段によって違ってくるが、郊外にも価値のある場所はある。竹内氏からは、国立市は、交通が中心に流れてこない、施設は住んでいる人のみが利用する、公共交通が充実しており、市全体がコンパクトシティであるとの発言があった。最後に、小山会員から、縮退時代の都市計画の手法が確立しておらず、便利を第一義にしないことも考えられるとの意見があった。今回、紹介された手法等が確立して周知され、より多くの地域で場所の価値についての議論が進むことを期待したい。

 
 
【関東都市学会 2019年度 第1回研究例会を開催しました】

■ 日時:  2019年9月28日(土) 15:00~17:30
■ 場所:  東洋大学白山キャンパス 8号館3階8301教室

■ 研究報告
杉平 敦(帝京大学 非常勤講師)
夢の器としての都市 ―歌謡におけるイメージの交換可能性―

■例会印象記
野村一貴(東京大学大学院)

2019年度の関東都市学会研究例会は、東洋大学白山キャンパスにおいて9月28日に開催された。本例会では、杉平敦会員より「夢の器としての都市 - (1) 歌謡におけるイメージの交換可能性:銀座と浅草-」と題した報告がなされた。

調査内容を簡単にまとめると、流行歌において浅草と銀座という都市がどのように表現されているかという観点からのテクスト分析である。分析の方法は、ある歌謡曲集に掲載されている全ての楽曲を母集団とし、分析に適さないものを除いた楽曲の歌詞から読み取ることができるモチーフを抽出し、解釈するものである。これらは概ね、見田宗介の『近代日本の心情の歴史』に依拠している。構造としては、見田によって示された「モチーフ」と「年代」に加えて、「都市」という変数が導入された形になる。

このように説明すると、定量的なアプローチによって実証的に都市の実態に迫ろうという研究であると読み取れるかもしれないが、副題にも示されているように、分析結果はあくまでそれぞれの年代における都市の「イメージ」を示唆するものとしてのみ供されている。ここに、本報告の動機にもなったという、社会調査とその結果に対する偏重への報告者が感じている違和感が示されている。

報告者は、実感が必ずしも実態を反映していなかった事例を挙げながら、社会調査によって得られたデータ(とりわけ、質的データ)には「実証性」に限界があることを指摘する。そして、質的データにより実態を把握するという「従来の研究」とは異なった研究パラダイムに立ち、実感が持つ意味を重視する。歌われる歌詞においてもインタビューデータなどと同様に捉えることができ、必ずしも「実態」を反映したものではないと報告者は主張している。

テクストを通じて実態を説明するという「従来の研究」の例として報告者が挙げたのが、吉見俊哉の『都市のドラマトゥルギー』である。吉見は同書において、関東大震災を契機として浅草から銀座へと盛り場が移っていくことを説明するときに、震災前後の流行歌における各都市の扱われ方を採り上げている。報告者はこのように楽曲が「実態」を反映していたかのような用いられ方に疑義を示し、他の楽曲における分析結果と併用しながら、銀座と浅草の流行歌におけるイメージは交換可能性があり、ありのままの実態を示したものではなかったことを明らかにした。続けて、時代が進むにつれて固定化されたイメージが強調されていることを指摘し、こうした実感が反映された結果として都市の実態にも変化を及ぼしたのだという仮説を導き出した。

以上の報告に対し、質疑応答ではまず、歌詞分析という方法そのものが持つ意味に対して議論された。景気などによっても歌詞内容は左右されることを挙げ、都市だけでなく社会そのものの変動を考慮することが必要であるとの意見が出た。また、歌謡曲の質的な変化も指摘され、「流行歌」であるからには「売れる要素」が抽出できるため、(心情だけでなく)社会的なニーズの反映であるという意見や、時代が下るにつれ、歌の内容が叙事的なものから抒情的なものへと変化しているという意見が出された。都市論への展開可能性としては、ある「都市」に寄せられた期待を示すものとして描けるのではないかということがいえるであろう。

続いて、都市の「実感」に対しての議論が展開された。端的には、何を「実態」と見做すかという問題である。流行歌が実態を反映していないと主張するときには、流行歌によって浮かび上がるものとは異なる、「実態としての都市像」が念頭に置かれることになる。報告の後半ではいくつかの生活記録の記述から、必ずしも浅草から銀座へと覇権が移ったとはいえないことが説明されていたため、都市の「実態」がこれらの作品に見出されると評価されていたと思われる。しかし、生活記録も流行歌と同様に「実感」を反映させているものではないだろうか。さらに言えば、生活記録について見田は「知的大衆の真意を表現するにすぎない」ものであると説明しているが、そのように見れば、民衆が「能動的に参与」することで成立する流行歌における「実感」とは元々異なるものであったことが示唆される。質疑応答の中では、地図あるいは店舗数などと対比しながら分析をしてはどうかという意見も出ていたが、これも「実態」をどこに定めるかという観点からの議論と位置付けることができる。確かに、トータルな「実態」を措定することが難しい都市においては、ある程度限定した「実態」として、土地利用や生活構造などを切り口とした分析も有効になる。

一方で、研究の性質を考えると、本来は「実態」を明らかにしなくてもよいものであったとも感じている。すでに述べたように、報告者は、「実感」の意味を問うことを主題としている。つまり、実証主義的なアプローチでなく、解釈主義的なアプローチによって都市を扱うことを宣言したことを意味する。都市を舞台とする上演に影響を与えた/与えられたと考えられる、(特定の)流行歌における「〇〇的なるもの」はいかなるものか、という問いに答えようとすることは、(極端にいえば)N=1でも成り立ちうる。このとき、「実態」よりも(議論で出てきた言葉を借りれば)「構想」に対する説明が求められる。しかし、本報告においては、見田の分析(N=495)よりも多い曲数(N=1,661)を網羅的に対象とし、これにより「実態」との距離を説明するという「実証的」な構築を読み取ることができる。結果として、むしろ実証主義的な社会調査の役割を強調するものになっているのではないかという疑念が残った。

報告者の一連の研究は緒に就いたばかりであり、今後、時代や都市を変えて分析が予定されているという。多くの研究の基礎になると思われる、都市のイメージに迫る研究がどのように展開していくのか、非常に楽しみである。

 
【2019年度 関東都市学会春季大会を開催しました】

■ 日時:  2019年5月25日(土) 13:00~17:50
■ 場所:  早稲田大学西早稲田(理工)キャンパス55N号館1階第二会議室

■自由報告 13:00~13:50
伊藤雅一(日本工業大学共通教育学群講師)
「商店街組合を主体とした祭りの展開と商店街の担う機能の変遷―祭りへのまなざしに着目して―」

金思穎(専修大学大学院博士後期課程)
「アーバニズム下位文化理論及び同質結合からみた都市コミュニティの地区防災計画づくり」

■シンポジウム 14:00~16:20 
【テーマ】 リノベーションの都市学(詳細は下記参照)
【司会・解題】 下村 恭広(玉川大学)
【報告】
河藤 佳彦(専修大学)
「協働と自立によるまちの価値創出―リノベーションまちづくり―」
小山 弘美(関東学院大学)
「まちづくり史におけるリノベーションまちづくりと修復型まちづくりの位置づけ」

■総会・理事選挙 16:30~17:50

■懇親会 18:15~20:15 山西亭

■ シンポジウム趣旨 「リノベーションの都市学」
研究活動委員長 下村恭広
 本学会は2017年度秋季大会より、リノベーションをテーマとした催しを続けてきた。次の春季大会シンポジウムでは、これまで得られた知見や論点を確認する総括的な議論を行う。
 リノベーションとは、建造物の改修によってその価値の引き上げを目指す事業である。新築時の価値を保つための改修であるリフォームとは異なり、しばしば従前とは異なる用途への変更を伴う。リノベーションは特に、何らかの事情で建て替えや再開発が難しい物件で、新築や築浅物件が尊ばれる不動産市場では値がつかず、そのまま空き家として放置されてしまうような建造物に対して実施される。リノベーションは、建設業界と不動産業界とを横断する新しいビジネスとして、あるいはまちづくりの新しい手法として多くの議論がなされている。
 本学会ではこれまで、建造物単体の改修ではなく、特定の街区で多くのリノベーションが連鎖的に進む(あるいは進めるべく取り組まれている)地域に注目し、時に街歩きもしながら個々の事例を学んできた。2017年秋季大会では東京都江東区清澄白河を対象に、都心周辺のかつての工業地帯で自然発生的に進むリノベーションの実情とその背景について考えた。つづく2018年春季大会では新潟市沼垂テラス商店街、長野市善光寺門前町、草加市におけるリノベーションまちづくりにかかわる方々をお招きし、条件の異なる地域で進む複数のリノベーションを比較検討した。なかでも草加市リノベーションまちづくりについては2018年秋季大会で引き続き注目し、現地を訪れて首都圏郊外地域における取り組みの実態を検討した。さらに先日の2019年3月の定例研究会では、リノベーションまちづくりと似ているようでいて異質な文脈と問題意識のもとで議論されてきた東京都世田谷区太子堂の修復型まちづくりを対置した。これらはそれぞれの地域の文脈に即してその具体的な進み方を明らかにし、当事者がどのように理解しそこに何を期待しているのか、またそれぞれの事例の背景に何があるのかを理解しようとつとめてきた。
 リノベーションは学問分野を横断して様々な水準で論じられているが、最も目立つのは地域振興やまちづくりの方法論としてのテクニカルな認識や評価である。次の春季大会シンポジウムでは、そうした議論を踏まえつつも、都市学会としてより広い観点に立ち、リノベーションが都市の構造やその変動についてどのような問題を提起するものなのか、改めて明確にする。これまでのまちづくりをめぐる議論、あるいは都市空間の更新をめぐる議論に照らすと、リノベーションはどのような新しい問題を提起しているのか。またそれは、都市の理解についてどのような新しい観点を要求するものなのか、これまでの都市研究の蓄積を踏まえて考える。
 シンポジウムは3人の登壇者による報告に基づく議論の場としたい。はじめに下村よりシンポジウムの趣旨説明とこれまでの議論の振り返りを行う。つづいて河藤佳彦会員に、地域産業政策の観点からリノベーションまちづくりについてご検討いただく。最後に小山弘美会員に、住民参加の修復型まちづくりをめぐる議論と交差する論点をご検討いただく。

■ 大会印象記
自由報告部会 印象記
中村 裕太
 第一の伊藤雅一氏による商店街組合を主体とした祭りの分析報告は、千葉県千葉市稲毛区や木更津市のような大都市圏における商店街組合の活動をめぐる解釈についての問いを学会員諸氏に投げかけた。近年では商店街組合こそ地域活性化の阻害要因であるという議論すらあるが、伊藤氏はその祭りの創出・拡大・伝播の過程に、単なる組合員の経済的利益追求や、地域主体としての存在感の低下を超えた地域における新たな意義を見出そうとする。伊藤氏は、「夜灯」をキーワードとして関連する3つの祭りを比較する。3つの祭りは実は、その意味づけや運営形態が大きく異なっている。それでもなお伊藤氏は――若干の考察の余地を残しつつも――商店街による祭りが、地域文化として「公共性」を獲得したのではないか、あるいは地域文化圏として確立したのではないかと提起する。質問にあったようにこれらの祭りにおける、原義としての「夜灯」の文化的潜在性や学生団体などの外部資源導入を取り出し、それらに積極的に働きかける商店街の力を改めて提示しない限り、商店街組合の後景化を十分には否定できないかもしれない。しかし、それぞれの祭りに共通して「子ども」の存在が大きく影響している点など、伊藤氏の視界には今日的に衰退しつつも、大都市圏ベッドタウンに顕著な商店街組合の能動性がすでにはっきりと捕捉されており、さらなる報告を待ちたいと思う。
 第二の金思穎氏の昨年に続く今回の報告は、地区防災計画づくりとCLAUDE S. FISCHERの研究を結び付ける野心的試みである。米国都市社会学の理論における、コミュニティについての喪失/存続/解放・変容の3つの方向性の中で、変容論に属するとされるFISCHERの〈アーバニズムの下位分化理論〉から地区防災計画づくりが説明される。また本報告ではSCATと呼ばれる分析手法が利用されており、これも研究者にとって学ぶところは大きい。複数事例の調査結果として、地区防災計画づくりが行われているコミュニティにはリーダーや外部資源だけでなく、良好な人間関係が確認された。たしかに、地区防災計画づくりが行われている地域は、行われていない地域よりも圧倒的に少ないと言われる。従来の研究枠組みでいえば――実際になされた質問の観点からいえば――特定の地域でその稀有な実践が可能になる固有の条件を明らかにしない限り、手法を抽出し他地区に応用することで、地区防災計画づくりを拡大させる目的は達成されえない。しかし本報告における、地区防災計画づくりの実践を、単に地域コミュニティの存続/喪失による結果ではなく、「防災」というテーマに基づく下位文化だと捉えた視点は、まさに〈社会学的に〉重要な指摘であろう。いずれにしろ同氏の野心的な理論研究は緒に就いたばかりと思われ、現代のコミュニティ喪失論のアポリアを解体するさらなる社会学的知見が期待される。

春季大会シンポジウム 印象記
池田 千恵子(大阪成蹊大学)
 2019年5月25日(土)14時からのシンポジウムは、冒頭で下村恭広氏(玉川大学)より、2017年度秋季大会より扱ってきたリノベーションのテーマの総括として、リノベーションが都市の構造やその変動についてどのような問題を提起するものなのか、について考察するという主旨説明が行われた。また、リノベーションの議論の振り返りとして、下村氏より、リノベーションの意味、老朽建造物に新しい価値が見いだされる審美的評価やジェントリフィケーションの問題、台湾での事例について報告が行われた。
 第二報告者の河藤佳彦氏(専修大学)からは、「協働と自立によるまちの価値創造-リノベーションまちづくり-」として、関東都市学会2018年春季大会シンポジウムを踏まえた考察をもとに発表が行われた。新潟市、長野市、草加市の事例から、民間主体の自立的で持続的なまちづくりの方法論として、1)歴史的建造物や町並みなどのハードストックと歴史や文化などのソフトとの相乗効果、2)市民活動との連携や協働による賑わいの創出、3)ハード施設を主体とする大規模な再開発事業にソフト面としてコンテンツの創出を取り込むことの重要性、などが示された。また、創造都市論の文脈においても、リノベーションが有効であることが提示された。
第三報告者の小山弘美氏(関東学院大学)からは、「まちづくり史におけるリノベーションまちづくりと修復型まちづくりの位置づけ」として、1970年代から2010年代におけるまちづくりの歴史を踏まえ、2010年代のまちづくりの潮流の一つとしてのリノベーションまちづくりについて、報告が行われた。本学会でも2019年3月16日(土)に事例紹介が行われ、まち歩きも行った世田谷区太子堂地区の修繕(修復)型まちづくりとの対比の中で、リノベーションまちづくりの主体、地域全体の合意の必要性、大きなビジョンとの整合性について、疑問点が提示された。
 三者の報告後、会場からは、再開発とリノベーションという相反する手法の共存について質問が出た。これに対しては、市街地再開発が行われる場合においても、地域の文脈を踏襲するリノベーションを併用することにより、地域固有の魅力が創出されることが示された。また、リノベーションまちづくりということばに関しては、異論も生じ、リノベーションとはそもそも、まちづくりとは関係のない部分で利己に行われている側面もあり、まちづくりとの結びつきの難しさについての指摘があった。
 上記報告と会場からの質問を統合すると、1)リノベーションを基軸としたまちづくりには、地域のビジョンが必要であること、2)遊休不動産などを活用し、新規ビジネスなどで地域ににぎわいをもたらす人々と既存のまちづくりを行っている人々などを融合させる必要があること、などが確認された。小地域でさまざまなリノベーションによる地域再生が行われている中、今後も検討していきたいテーマである。

 【関東都市学会 研究例会を開催しました】

■ 開催日時 2019年3月16日(土) 13:00~17:00
■ 開催場所 世田谷区太子堂まちづくりセンター(太子堂出張所)
【自由報告】13:00~13:50
 「ジェンダー・多様性視点による地域防災活動の活性化
―大阪北部地震における被災コミュニティの対応状況を踏まえて―」
浅野幸子(減災と男女共同参画 研修推進センター・早稲田大学地域社会と危機管理研究所)

【まち歩き・意見交換会】13:50~17:00
住民参加の修復型まちづくりを行ってきた世田谷区太子堂エリアを視察します。まち歩きの後、案内人の梅津政之輔氏を交えて、意見交換会を行います。
13:50~13:55 太子堂のまちづくりについて取り上げることの説明
13:55~14:00 世田谷区街づくり課伊東課長 ご挨拶
14:00~14:10 世田谷区のまちづくりの背景(小山弘美会員)
14:10~15:00 太子堂まちづくり事例の紹介(梅津政之輔氏)
15:00~16:00 太子堂まち歩き
16:10~17:00 まち歩きを踏まえた討議

【懇親会】17:30~ ※懇親会に参加希望の方は、事前にメールで事務局までお申込みください。
会場:オステリア割烹りんどう

■ 印象記
関東都市学会研究例会 自由報告印象記
米本 清(高崎経済大学)
 2019年3月16日(土)13時から、世田谷区太子堂まちづくりセンターにて関東都市学会研究例会の自由報告が行われ、減災と男女共同参画研究推進センター共同代表(早稲田大学地域社会と危機管理研究所招聘研究員)浅野幸子氏による「ジェンダー・多様性視点による地域防災活動の活性化~大阪北部地震における被災コミュニティの対応状況も踏まえて」と題した報告がなされた。同氏は長年にわたり地域防災活動における女性の活躍に焦点をあてて研究されてきたが、昨年6月にはたまたま実態調査を進めていた大阪府北部のN市近くで大阪北部地震が発生し、発災後の対応などを聞き取り、まとめることができたという。本報告はこれに基づく分析と、その背景となる理論や制度に関するものである。
 導入部分で同氏は、災害時における被災者支援の質を確保する上で、旧来の画一的な支援、例えば男性・年長者・健康であるといったかつて典型的であったタイプの責任者の判断に多種多様な被災者・支援者が遠慮しながら合わせるといった状況は望ましいものではなく、「ケア水準の維持」を達成するため、マイノリティも含む多様性への配慮が必要であるという、同氏のこれまでの研究成果・提言を強調された。またその中で、災害対応における「補完性の原理」や被災者側の「受援力」といった概念にも触れられた。
 私(米本)は東日本大震災後には災害関係のさまざまなデータ研究などに携わってきたが、実はこうした視点を強調する報告にはあまり触れてこなかった。今回の報告をお聴きし、あらためて被災者支援というものが被災者の方々の個々のご要望や日々の「生活」そのものへの手助けであることを思い起こさせられた。そしてそれらは硬直的・一律的なものであってはならず、むしろ被災者が「話しやすい」「接しやすい」と感じるような、多様な担い手によってなされるべきであるという、ご報告者の議論は大変説得力があるように思われた。
後半は、大阪北部地震の事例、とくにご報告者が発災前から調査をされてきたN市における実際の対応につき、5地区の状況を整理して分析されていた。主要な結果としては、発災前から連携に力を入れ、防災組織に女性役員がいたり「女性防災リーダー」の受講者がいたりする地区では、被災後の対応も十分になされ、きめ細かいものであったという、上述の議論をサポートするような内容が示された。これに対しては出席者3名の方々から質問やコメントが寄せられ、資料の提示方法や、より実態に即した捉え方への意見が出されたが、議論の方向性に関しては多くが好意的であった。
 実は、私は今回の報告が始まるとき、本研究が災害とご報告者の視点(ジェンダー等)を、やや機械的につなぎ合わせたものなのではないかという先入観を持っていた面がある。しかしながら、東日本大震災を目の前で体験した私からしても、筆者の議論は大変説得力があり、マイノリティなどの被災者に対するケアの有効性という点において、最も重要であるといっても過言ではないと感じた。今後、手法や提示方法を工夫され、さらに研究を進められることを願う。

関東都市学会研究例会 まち歩き印象記
川副 早央里(東洋大学)
 研究例会の後半は、住民参加型の修復型まちづくりを行ってきた世田谷区太子堂エリアのまち歩きと意見交換会を行った。この数年間、関東都市学会では「リノベーションまちづくり」をテーマに掲げ、清澄白河や草加市を事例に研究を重ねてきた。今回はその研究活動の延長で、修復型まちづくりに長年取り組んできた太子堂地区のまちづくりに学ぼうと企画された。「リノベーションまちづくり」と「修復型まちづくり」は言葉としては異なるものの、街や建物を次の形に変えて価値を向上させていくという点では同じ取り組みであると考え、それぞれの共通点と相違点を比較しようという試みである。
 まずは、これまで世田谷区に長くかかわり調査をされてきている小山会員から世田谷区のコミュニティ政策と太子堂エリアの修復型まちづくりの概要が説明された。続いて世田谷区世田谷総合支所街づくり課の二見氏から、世田谷区および太子堂エリアの歴史と都市計画的な特徴を解説していただいた。
世田谷区では、1974年の地方自治法改正により区長公選制が復活し、革新系の区長が誕生したことから住民主体のまちづくりが開始された。1979年に策定された世田谷区基本計画では「住民参加の防災まちづくり」が重点事業に掲げられ、モデル地区として選ばれた太子堂地区で「まちづくり協議会」が組織されたことから太子堂地区のまちづくりが展開してきた。太子堂地区は、関東大震災後に基盤未整備のまま市街化・高密化が進んだ密集市街地で、木造建築物の老朽化や空き地不足などから災害時の危険度が高いエリアであることから、国や都の密集事業に先駆けて防災まちづくりに取り組んできたのである。世田谷区では、ハードな取り組みを「街づくり」、ソフトな取り組みを「まちづくり」として区別し、太子堂地区でもハード面では緑地を増やしたり、立て替えを促進するなどの対応を進め、ソフト面では住民参加のまちづくり、コミュニティづくりなどの活動を活発に行ってきた。
 今回まち歩きの案内をしてくださった梅津政之輔さんは、現在まで約40年間太子堂地区まちづくりに携わってこられた方である。地図を片手に歩き始めたが、細い路地がくねくねと続き、梅津さんの案内がなかったら間違いなく迷子になるような地域であった。人ひとりしか通れないような狭い空間や道路付けが悪い住宅などもあり、路地空間としては非常に面白い場所であるが、災害時には危険箇所となるような場所も多くあった。まち歩きでは、住民主体で行ってきた様々な地域活動や整備してきた緑地をご案内いただき、豊富な知識量、高い住民力と行動力を感じずにはいられなかった。
 まち歩きのあとは、コミュニティセンターに戻り、梅津氏と二見氏を囲んで意見交換会を行った。土地買収のプロセスや道路付けのない家屋の価値や買収に関する質問や、「9000人の合意形成」の考え方と手法に関する質問などが挙げられた。そして、次世代のまちづくりの担い手がなかなか育たない現状のなかで、「これからのまちづくりに対する意見を聞きたい」という梅津氏からのリクエストがあり、会員からは、「防災まちづくりという共通課題をもって住民をまとめてきた時代から課題も社会も変わりつつある。これからは9000人のコミュニティを目指すのではなく、小さくて多様なコミュニティが地域の魅力になるのでは」「まちの資産であるとおっしゃる多様な人が求めるまちづくりを追求することが大切だと思う」などの意見が出された。それに対し梅津氏も、「これから必要なのはリーダーではなくファシリテータだと思う」と話された。
 流動化社会に求められるまちとは、まちづくりとは。いかに世代交代を実現し、地域の担い手を育成していくのか。これらは太子堂地区のみならず、他地域にも共通する課題である。今回の研究例会を通じて新しい地域社会の在り方やまちづくりの方向性は共有されたように感じたが、太子堂地区が行政と住民の協働の歴史と蓄積を生かし、新しい時代のまちづくりがどのように展開されていくのか、太子堂地区の今後に引き続き注目していきたい。

 
【関東都市学会 2018年度 秋季大会を開催しました】

日  時:2018年12月16日(日) 10:30~16:00
開催地:埼玉県草加市
主  催:関東都市学会
後  援:草加市
会  場:草加市立高砂コミュニティセンター集会室(草加市中央1丁目2番5号)

【大会】
■ ワークショップ「リノベーションまちづくり」
10:20 会場集合・受付開始(会場:草加市立高砂コミュニティセンター集会室)
10:30 開会    
・司会・進行:河藤佳彦(専修大学)
・開会挨拶:関東都市学会会長 熊田俊郎(駿河台大学)
10:40~12:00
・レクチャー:髙橋浩志郎(草加市自治文化部産業振興課長)
 「そうかリノベーションまちづくりについて」
13:00~14:00  エクスカーション
・案内:髙橋浩志郎(草加市自治文化部産業振興課長)
     中山拓郎(そうかリノベーションまちづくり協議会家守部会長、株式会社
           Daisy Fresh代表取締役、株式会社奏草舎取締役)
14:00~16:00 意見交換会(会場:草加市立高砂コミュニティセンター集会室)
         討論参加者:髙橋浩志郎、中山拓郎
【懇親会】 17:00~19:00 

【ワークショップ解題】
・大会ワークショップテーマ  リノベーションまちづくり
 河藤佳彦(専修大学)
 関東都市学会では、2017年度から「リノベーションまちづくり」をテーマとして、その意義や実態の解明のため探求を進めてきた。2017年12月3日に東京都江東区において開催された2017年度秋季大会では、「清澄白河〈下町〉のリノベーション」をテーマとしたワークショップ、続いて清澄白河界隈の街歩きが行われ、ディスカッションで締めくくられた。2018年5月26日に日本大学文理学部において開催された2018年度春季大会では、「小さな仕事が育つまち―“リノベーションまちづくり”の展開から考える」をテーマとしたシンポジウムが開催された。
 学会としてのこのような取組みの蓄積を踏まえ、2018年度秋季大会では、リノベーションまちづくりに積極的に取り組んでおられる埼玉県草加市を訪ね、実際のまちの現状を見学すると共に、行政や事業の関係者の方々から直接に話をお聴きすることによって、リノベーションまちづくりについて実践的な視点から考える契機としたい。
 草加市のリノベーションまちづくりについては、2018年度春季大会のシンポジウムにおいて、草加市自治文化部産業振興課長の髙橋浩志郎氏よりご報告をいただいた。本報告では、草加市の現状に客観的な評価を加え、将来に向けた課題を確認したうえで、行政の実務家の視点からリノベーションまちづくりの意義が論じられた。
 この報告の中でも特に注目すべき点は、リノベーションまちづくりの最終目的は、空き家・空き店舗対策ではなく、市内購買力が低下している中での将来的な商業地域の空洞化対策だということである。そして、職住遊近接のまちづくりにより、地域内循環を創り出していくことが目標とされる。そのために公民連携が重要となるが、行政の役割は、リノベーションまちづくりへの参画の場の提供と、事業の成長可能性を高めるための支援であり、実際の事業に中心的な役割を担うのは民間の人たちであると捉えることができる。
リノベーションまちづくりが、草加市の行政計画の体系の中に位置づけられていることも注目される。それにより、全市を挙げてリノベーションまちづくりの事業をバックアップすることができる。また、多様な施策との連携を図ることができる。空間資源、産業、文化、歴史資源、人的資源という、地域の中の様々な資源をうまく結びつけ、活力あるまちづくりに集約していく、同時に個々の施策を効果的に実現していくための共有の仕組みとして、リノベーションまちづくりを活用することが大事なのだと受け留められる。
 草加市の髙橋課長のご報告を踏まえ、このような見解をもって草加市を訪ねることにより、先述のとおりリノベーションまちづくりについて実践的な視点から考えたい。
 当日は、午前中に草加市のリノベーションまちづくりへの取組みについて、草加市の髙橋課長よりご説明を受けた上で、昼食を含めたエクスカーション、その後、エクスカーション等を踏まえた討論会の実施を計画している。

【印象記】
・エクスカーションについて
野村 一貴(東京大学大学院)
 2018年度秋季大会のエクスカーションでは、「そうかリノベーションまちづくり」により実現したリノベーション事例を中心に草加駅東口エリアの視察をおこなった。ナビゲーターとして、リノベーションまちづくりを担当する草加市自治文化部の髙橋浩志郎氏と福島祐樹氏に加え、「リノベーションスクール@そうか」によって誕生した物件のオーナーである田中昴氏(野菜とお酒のバル スバル)ならびに中山拓郎氏(soso park)にもご案内いただいた。
 エリアリノベーションが主に進められているのは、草加市を縦断する県道49号足立越谷線から草加駅側に1本入った一方通行道の沿道である。このエリアは、日光街道の宿場町・草加宿として江戸時代には多くの商家が立ち並び、現在でも神社や当時の商家といった歴史資源を多く残す一方、その立地条件から新たにマンション開発も進んでいるなど、さまざまな空間認識が混在しているエリアといえよう。エクスカーションでは、「旧道」と呼ばれるこの道路の北側エリアに立地している「野菜とお酒のバル スバル」、「洋食屋 アターブル」、「ecoma coffee」、「キッチンスタジオ アオイエ」、「soso park」という5つの物件を巡った。当日は参加者を2つのグループに分け、ナビゲーターも髙橋氏と田中氏(Aルート)、福島氏と中山氏(Bルート)に分かれて案内がなされた。以下、このうちのBルートにおける案内順で記述する。
 まず案内されたのは、草加駅の大通りとの交差点に位置する「soso park」である。道路拡幅によって生まれた公共用地を利用してカフェスタンドやイベントスペースを設置したもので、中山氏も参加する家守会社の「草奏社」によって運営されている。カフェスタンドではドリンクや軽食のほか、近隣の農家と提携した野菜の移動販売スペースも設けられ、多くの人で賑わっていた。13時過ぎに訪れたこともあって若い女性客の姿が目立ったが、平日の午前中などは「朝からアルコールが飲める貴重な場所」として、髙齢者層からの人気も根強いという。続いて案内されたのが草加住吉郵便局の隣に位置する「ecoma coffee」ならびにその向かいの「スバル」である。「ecoma coffee」は喫茶店、「スバル」は寿司屋として営業していた店舗をそれぞれリノベーションして生まれた物件である。いずれも、ガラス張りで外から中が見えるようなデザインとなっており、伝統的な街並みにみられる「暗い」印象からは離れたものとなっている。これらの店舗が開店して以降、かつては見られなかった女性の一人客も来店するようになるなどの客層の変化も生まれているという。一方で、古い雰囲気を意識して残しているのが「洋食屋 アターブル」である。店舗ではなく、民家を改装して生まれた物件ということもあり、どこにでもある店ではなく「自分たちの」店にしたいという認識から既製品にこだわらずに内装や什器のデザインを決めていったという。週末には草加市外からのお客さんが多く訪れ、これはリノベーションスクールで一緒になった人たちの口コミによるものが大きな理由であるという。店主の阿久津修氏は、リノベーションスクールの意義として、補助金は出なくても、それ以上に「人とのつながり」が大きかったと振り返っていた。リノベーションスクールの特色が示されたもう一つの事例が、「キッチンスタジオ アオイエ」である。取り壊し間近の木造アパートを対象として、地域の人々の集う料理教室にしたいというコンセプトで進められた事業であるが、リノベーションスクールでの想定は1階をレストラン、2階を料理教室へと改装するものであったという。しかし、様々な事情からうまく実現せず、まずは1階を料理教室としてオープンし、2019年より2階をフリースペースとして貸し出す方向で経営方針を転換させたという。この経緯について、担当者は「(リノベーションスクールの)3日間では考えが浅かった部分もあった」と率直に認める一方で、その3日間だけで完結できるものではなく、その後の事業として立ち上がっていく過程においても外部のアドバイザーがつく仕組みになっていると説明した。実際に、「アオイエ」でもアドバイザーの清水義次氏(アフタヌーンソサエティ)による提案があったといい、こうしたアフターケアもリノベーションスクールで生まれた発想を地域社会へ実装していくための重要な要素といえるであろう。
 エクスカーションを通じては、「自分ごと」をどうまちづくりの中に組み込んでいくかに対しての視点が、どの案件に関しても考え方の基盤に据えられていることが印象的であった。意見交換会でも同様の議論があったように、行政が主導してまちを組み替えていく意味でのまちづくりの限界が指摘されるようになってからは、まちを組み替えることだけでなく、それに自分の生活を接合していくこと(生活を組み替えていくこと)が志向され始めている。「soso park」での野菜販売を例にすると、野菜を買いに来る近隣の住民は定期的な利用をしているのではなく、基本的にはスーパーで週に1回まとめて食材を買う生活をしている中で、足りなくなった時に近くの「soso park」まで買い足しに来ているのだという。これは、大規模スーパーで販売されている低廉な野菜との差別化によって、これまでの地域社会の論理と「soso park」のコンセプトが無理なく適合したものであるが、こうした適合を可能にするためのひとつの要素が計画段階での「自分ごと」化であり、髙橋氏の表現で言う「圧倒的な当事者意識」なのであろう。しかしこれは、まちづくりに携わっている人だけでの当事者性で成り立っているものではない。エクスカーションの最中、リノベーションスクールによって生まれた案件を「特別扱い」していると思われないように腐心している現状が行政側から語られる場面があった。こうした努力もあって、現状ではまちづくりに直接的に関わっていく人々と、それによって生まれた価値を享受する人々の双方にとって「自分ごと」の方向性は矛盾していないように見受けられる。まちづくりの当事者が移行したときに、当事者と当事者を媒介する行政側のスタンスとして参考にすべき点は非常に多い。

・意見交換会について 
松尾 隆策(東洋大学)
 「そうかリノベーションまちづくり」が行われているエリアのエクスカーションの後、会場に戻り行われた意見交換会では、まちづくりに関する闊達な意見が交わされた。司会は、専修大学の河藤佳彦会員、討論者は、大会ワークショップでレクチャー講演をされた草加市の髙橋浩志郎自治文化部産業振興課長、そうかリノベーションまちづくり協議会家守部会長の中山拓郎氏、そうかリノベーションまちづくり第1号案件をわずか4ヶ月で事業化された「野菜とお酒のバル スバル」店主の田中昴氏である。実際に事業化された田中氏の経験談はとても感銘深く、参加者も巻き込み熱気に溢れた討論会となった。
 3人の討論者の紹介を簡単に行うことにする。まず、髙橋氏は、春季大会での事例報告に引き続き今大会でレクチャー講演をされた。「そうかリノベーションまちづくり構想」に始まり、「トレジャーハンティング」の開催、「リノベーションスクール」の開催、「リノベーションまちづくり協議会」の設置に尽力され、リノベーションまちづくりの代表例「草加事業モデル」を形づくられた中心的人物である。
 中山氏は、草加市で食事と農業の総合プロデュース会社「ディジーフレッシュ」を経営する。農地がマンションに建て替わる草加市で、長年農業を営んできた家業を継ぎ、専業農家として環境に配慮した農業を行う。また、隣の直売店「チャヴィペルト」では、栽培された野菜を用いて、惣菜、日替わりランチボックスなどの製造販売もしている。そうかリノベーションまちづくり協議会では、家守部会長として、リノベーションスクールの運営のほか、トレジャーハンティング等、まちづくりイベントを通じて、家守の顕在化と育成の活動を行っている。
一方、田中氏はもともと、リノベーションスクールの受講生で、18年前に閉店した「篠寿司」を題材としたユニットのメンバーである。田中氏は、以前から飲食店の開業を考えていたが、場所や資金のことなどで、なかなか決心が付かなかった。スクールで「篠寿司」オーナーの篠崎氏の話を聞き、「お客さんが自分の家のように素でいられて、自宅に帰って来たかのように思える店を草加でやりたい」と感じ、起業の決心を固められた。「野菜とお酒のバル スバル」は、安心・安全の地場野菜を中心に、新鮮で美味しいヘルシー野菜を提供する、地元住民の安らぎ空間となっている。
 討論会では、まず、草加市の髙橋氏が、全国的に珍しい「ベッドタウン」の中心市街地の活性化を目指した「そうかリノベーションまちづくり」についてレクチャー講演に引き続いて説明された。「ベッドタウン」の特徴として、住民の多くは「まち」に愛着を持たないことが多いが、「そうかリノベーションまちづくり」の成果として、休日も、多くの住民は草加市内で過ごすようになり、市内での消費額が増加しつつあることを述べた。その後、田中氏が、起業までに至った自らの体験談を述べた。田中氏は、補助金に頼らない「そうかリノベーションまちづくり」の方針に、当初は戸惑ったが、振り返れば、この自立を促す方針がかえって励みとなり、現在の成功に繋がったと述べた。そして、中山氏も、地元に対する郷土愛を感じさせる話を熱弁された。草加のまちづくりの取組がこれほどまでに成功したことの原動力は、地元を愛する人的資源にあることを、強く感じさせられる話であった。本事例の成功の最大の要因は、民間の自立を促すプロジェクトの仕組みにあるといえる。市は、あくまでサポートすることに留まっており、補助金ありきの取組とは、全く内容を異にする。草加市が、以前の「寝に帰るだけのまち」から、交流する場、行きたい店(場所)があるまちに変貌をとげられたのは、このような民が主導の取組にあるといえ、この事例は、全国のまちづくりの模範的な事例であると強く感じた。

 
【関東都市学会 2018年度 第1回研究例会を開催しました】

日時:2018年9月29日(土) 15:00~17:30
場所:立教大学池袋キャンパス 4号館3階4339教室

報告1
下村 恭広(玉川大学准教授)
リノベーションまちづくり再考―清澄白河のフィールドワークを振り返ってー(仮)

報告2
河藤 佳彦(専修大学教授)
地域産業政策からみたリノベーションまちづくり


■ 例会印象記
関東都市学会研究例会 印象記              
杉平敦(帝京大学)
 2018年9月29日(土)、立教大学池袋キャンパスで研究例会が開かれた。1年以上に渡り当会で検討を重ねてきた「リノベーションまちづくり」に関し、検討の中心を担ってこられた2氏からご報告いただく予定だったが、やむを得ない事情により河藤佳彦会員による報告「地域産業政策からみたリノベーションまちづくり」1本のみとなった。それでも、今後に繋がる活発な議論が交わされた。
 同報告で河藤会員は、地域経済・地域産業の観点からまちづくりを検討された。地域経済・地域産業の自立的・持続的な発展を目指すとき、自立的・持続的なまちづくりは必要不可欠であり、その観点から注目すべき手法として、民間の家守・事業者が主役となるリノベーションまちづくりが浮上するということだ。
河藤会員は、埼玉県草加市、長野県飯田市、大阪・千里ニュータウンという異なる事情を抱えた3地域を事例として挙げられた。そして、それぞれの取り組みを紹介した上で、今年の春季大会の整理と今後の展望を併せて示された。その上で、リノベーションまちづくりの主体はあくまで民間であり、行政は彼等が活動しやすい条件を整えるなど補助的な役割に留まるべきこと、単なる空き店舗対策に留まるのではなく、まちのコンテンツを創出して全体の価値を高めるべきことなどが強調された。そしてそのために、当事者間の意識の擦り合わせ、長期的なまちづくりビジョンの共有などが必要とされた。
 その後、個々の取り組みが始まった具体的な契機についての質問や、まちづくりが成功した基盤に産業振興の成功があったとの指摘があった。河藤会員は、第三セクター方式には失敗例も多いが、まちづくり会社を設立すれば事業性と公共性を両立できる場合もあること、産業振興やまちづくりなど個々の取り組みの基盤として、地域内のソーシャル・キャピタルが必要であることなど、新しい要素を付け加えて説明された。
 さらに、リノベーションまちづくりが効果を持つ地域の範囲や規模の問題、リノベーションまちづくりと大規模開発の関係性についても質問があった。また、昨秋の大会で訪れた清澄白河と今秋の大会で訪ねる草加という対照的な事例に関し、その違いをどう捉えるべきかといった質問も出た。これらを話し合う中で、リノベーションまちづくりと大規模開発は組み合わさる場面もあれば対抗する場面もあること、長期的なビジョンのために短期的な利潤追求を控える選択をした点が草加の事例の特徴とされることなどが、明らかになった。
 この質疑では様々な角度から質問や意見が寄せられたため、報告に対して質問が、質問に対して回答が、必ずしも噛み合っていないように見える場面も多かった。司会の松橋達矢会員が懸命に整理して下さったが、記録者自身の知識・理解力を超える部分が大きく、十分にはお伝えできないことをお詫び申し上げる。


【関東都市学会春季大会を開催しました】

日時:2018年5月26日(土) 13:00~17:45
場所:日本大学文理学部 3号館5階 3504教室

■ 自由報告 13:00~13:50
中村裕太(早稲田大学大学院修士課程)
「八ッ場ダム建設地域における社会の変容と運動の歴史」
金思穎(専修大学大学院博士後期課程)
「北九州市小倉南区志井校区の外部有識者等の支援を受けた地区防災計画づくりに関する地域社会学的研究――半構造化面接法によるインタビュー調査及びSCATによる質的データ分析――」

■ シンポジウム 14:00~17:00 
「小さな仕事が育つまち―“リノベーションまちづくり”の展開から考える」
【司会・解題】
下村 恭広  (玉川大学リベラルアーツ学部准教授)
【事例報告】
池田 千恵子 (大阪市立大学大学院創造都市研究科客員研究員)
髙橋 浩志郎 (草加市自治文化部産業振興課長)
築山 秀夫 (長野県立大学グローバルマネジメント学部教授)
【コメンテーター】
金 善美(同志社大学創造経済研究センター 嘱託研究員)
河藤 佳彦(専修大学経済学部教授)

【シンポジウム趣旨】 
研究活動委員長 下村恭広
── 新しいアイデアは古い建築を使うしかない
              ジェーン・ジェイコブズ『アメリカ大都市の死と生』
 このところ全国各地の街角で、空き家となっている建物の再活用──リノベーションに基づき、小規模小資本の事業者たちが歩ける範囲の街区に集まる動きが見られる。このような現象は時に「リノベーションまちづくり」や「エリアリノベーション」などと呼ばれる事業へと展開し、大規模再開発のような補助金に依存した地域活性化と対置される手法として注目されている。そのためこの手法は、各地の成功例について汎用性を備えた社会技術として整えられ、かつ「リノベーション・スクール」のような独特の方式で伝道されるようにもなった。その一方で、こうして組織的に標準化されていない、各都市に独特のやりかたで、非計画的で非組織的なリノベーションが特定の街区で連鎖的に進んでいる事例も見られる。
 リノベーションとは、新築時の価値を維持するためのリフォームとは異なり、建造物の改修によってその価値の引き上げを目指す事業である。対象となるのは老朽建造物であるが、文化財として認められるものではない。新築が尊ばれる不動産市場では値がつかず、しばしばそのまま空き家になってしまうような建物である。つまりリノベーションとは、従来の見方ではただ古いだけの建物を、新しい観点から価値を見出して再活用することである。それはしばしば、新しい見方を可能にするような人々の新たな関係、あるいは人々と場所の新たな関係の結び目となりながら進んでいく。
リノベーションの地域的連鎖は、まちづくりの新しい手法として体系化し標準化するだけでなく、このような、それぞれの地域に固有の創造性を探り当て、伸ばしていく試みとしても理解しなければならない。そのためには、実際にリノベーションが連鎖的に進む街区について、各地の実情に基づいてさらに吟味する必要がある。そこでは、これまでまちづくりの担い手として認識されてこなかった、小資本での新規開業を目指す若者や移住者が目立つ。彼らは何者で、どのような未来を古い建物に見出すのだろうか。そして彼らと、従来型の再開発から取り残された老朽建造物群との出会いがある。その出会いは、どのような工夫によって仲介できるのだろうか。また、建物の所有者や既存住民は、どのように来住者を受け容れるのだろうか。小資本主導のリノベーションの地域的連鎖を進めるこうした出会いには、各地域の固有性に根差した地域の将来像の構想につながることが期待されている。そのためにはどのような制度的条件を整える必要があるのだろうか。
 今回のシンポジウムでは、このような小資本主導のリノベーションの連鎖と、それを実現させている諸要素についてご報告いただき、あわせてその動向からどのような地域の将来像が描けるのかを議論したい。

■ 総会 17:10~17:40

■ 懇親会 18:00~20:00 

■ 大会印象記
自由報告部会 印象記
長谷川圭亮(日本大学)
 梅雨入りを前にした5月26日(土)、2018年度関東都市学会春季大会が日本大学文理学部で開催された。今回の大会は自由報告とシンポジウムの二部構成であり、私の方からは前半の自由報告2本に関する印象記を執筆することをお許しいただきたい。
 第一報告は中村裕太氏(早稲田大学大学院修士課程)による「八ッ場ダム建設地域における社会の変容と運動の歴史」の報告である。「ダム建設反対から、受け入れへの住民運動の転換に着目し、地域が強固な反対運動を持続しえなくなった社会的背景を明らかにする」ことを研究の目的とし、80代後半で戦後流入の旅館業主であり反対派グループの中心的人物であるAさんの語りを引用し、知事の生活再建案提示や他の水没地区からのプレッシャー等から「仕方がない」という消極的ではあるがダム建設に同意するようになったという報告である。
 反対派のリーダーを任されるということは、地域における中心的人物となるということを含意しており、政治的アクターや地域の様々な声と葛藤していかなければならず、時には自己犠牲を伴うものだと感じた。フロアからの質問及び中村氏が報告の中で課題として挙げていた、「建設計画が一時凍結される2009年以降」の話は八ッ場ダム建設運動史において重要なものとなりうると思うので、今後の研究に期待したい。
第二報告は金思穎氏(専修大学大学院博士後期課程)による「北九州市小倉南区志位校区の外部有識者等の支援を受けた地区防災計画づくりに関する地域社会学的研究―半構造化面接法によるインタビュー調査及びSCATによる質的データ分析―」の報告である。北九州市のベッドタウン的性格を持つ小倉南区志位校区における住民参加型の地区防災計画づくりについて、外部有識者等の支援に着目しつつ考察することを研究の目的とし、半構造化面接法のインタビューの結果を、SCATによる質的データ分析と頻出語分析、共起ネットワーク分析による計量テキスト分析で分析した研究である。本報告の結論では、①良好な人間関係を特色とする地域コミュニティの存在、②自治会長等の住民のリーダーの存在、③行政との連携、④大学教員やNPO等の「外部資源」によるサポート、⑤日常的な地域活動が結果的に地域防災力の向上につながることが明らかにされた。
 近年、「郊外地域においても地縁的結合が薄れてきている」との言説もある中で、本報告の事例は積極的な地縁的結合を維持しようとしていることが読み取れるものであった。今後は「住民自身が地区防災そのものをどう、どこまで考えているか」について考察が深まることを期待したい。
今大会の自由報告は2人とも若手研究者による報告であった。本学会は多くの若手研究者が研究発表を行える機会があるので、今後も積極的に多くの若手研究者が発表を行うことを期待したい。

春季大会シンポジウム 印象記
引間隆文(飯能市役所)
 自由報告に続いて、春季大会シンポジウム「小さな仕事が育つまち―“リノベーションまちづくり”の展開から考える」が開催された。
 まず、司会の下村恭広氏(玉川大学)から、リノベーションによる小規模・小資本事業者による民間主導のまちづくりの動きが、行政主導の大規模再開発に対置される手法として各地に広がりつつあり、その動向からどのような地域の将来像が描けるかを探りたいとの趣旨説明がされた。
事例報告は、まず池田千恵子氏(大阪市立大学)から「歴史的建造物のリノベーションによるインナーシティの再生」と題して、新潟市の事例を通して、リノベーションによる地域の再活性化とその課題について地域との関係性等もふまえた報告がされた。次に、築山英夫氏(長野県立大学)から「地方都市におけるリノベーションまちづくり2.0―長野市善光寺門前を事例として―」と題して、長野市におけるリノベーションまちづくりの展開をたどりつつ、「2.0」とも言うべき新たな段階に発展しつつある現状について報告がされた。最後に、髙橋浩志郎氏(草加市役所)から、リノベーションまちづくりを地域課題解決の手段として計画に位置付けた上で積極的に推進している埼玉県草加市の取り組みについて報告があった。
 以上の報告をふまえて、コメンテーターからコメント等があった。まず、金善美氏(同志社大学)からは、メディアでは美談として取り上げられがちなリノベーションまちづくりについて、地域や従来型の開発手法との関係など実態を捉えながらその意味について議論することの意義が提示された。河藤佳彦氏(専修大学)からは、ハードストックとソフトストックの組み合わせによる相乗効果を引き出しつつ、大規模まちづくりや創造都市・創造産業との関係性の構築について問題提起がされた。その後、フロアからも質疑が寄せられ、リノベーションまちづくりへの関心の高さが伺えた。
 まとめとして司会の下村氏により、老朽建造物の再利用にとどまらず、新しい関係性の構築など多様な視点から議論を深めていくことが課題とのまとめがなされて閉会となった。
シンポジウム終了後、熊田会長から、今回のテーマとしてリノベーションまちづくりという「ブーム」を取り上げることに半信半疑であったが、単なる改築ではなくまち自体のリストラクチャリングとして大きなテーマであり今後も継続して取り上げていきたい、との挨拶があった。地方行政の末端に身を置く筆者にも、リノベーションまちづくりが、問題は抱えるものの、一過性のブームではなく、まちづくりの新しいそして可能性に満ちた手法であるとの印象を十分に与えるものであった。また、文化財保護に従事している筆者にとっては、文化財の保存・活用の手法としても興味深いものがあった。
 本シンポジウムを契機に、議論が更に深められていくことを期待したい。


【関東都市学会2017年度第2回研究例会を開催しました】

■ 開催日時 2018年3月4日(日) 15:00~17:30
■ 開催場所 専修大学神田キャンパス 1号館12階 社会科学研究所
■ 報告
「福井市内高校卒業者の地域移動とライフコース―福井県外での生活を中心に―」
西野淑美(東洋大学)

■ 印象記
関東都市学会研究例会 印象記
松橋達矢(日本大学)
 本格的な春の訪れを感じる暖かな日差しが心地よい2018年3月4日(日)、関東都市学会2017年度第2回研究例会が専修大学神田キャンパスで開催された。今回は、自由報告1本と若干さびしい形であったものの、その分熱のこもった議論が展開された。以下では、西野淑美氏(東洋大学社会学部)による「福井市内高校卒業者の地域移動とライフコース――福井県外での生活を中心に」の報告と参加者による議論を踏まえつつ、私自身が感じ考えた点を「印象記」としてまとめさせていただくことをお許し願いたい。
 さて、今回の例会における報告ならびに討論の骨子を私なりにまとめると、「移動」、とりわけ地域移動を成立させる普遍的ないしそれぞれの地域において個別特殊的な形で成立する構造的要因へと目配りしつつ、そうした構造的要因が人々の「意識」を媒介しながら集合的・個人的な「移動」へと結実していくメカニズムの探求可能性をどのように拓いていくか、という点に集約されるように思う。旧来の地域移動研究は、住宅取得等の住み替えに照準化した研究群を除くと、進学や就職等のライフイベントを契機に上昇移動を目指す「向都離村」の動きを前提とした研究群がメインストリームを占める。それ故に、移動者把握の調査方法上の困難と相まって、主要なファインディクスが比較的若年層に偏りやすいという印象を感じていた。西野氏や他の論者も指摘するように、高校卒業の人々を特定の地域移動に乗せる/ない社会的な選別の仕組み、そしてそうした仕組みを内面化し自明視するような作用が強固に機能しやすい層が若年層であることは確かであるが、その内実やメカニズムの働き方は時代・場所によって異なるはずである。
 このことを示唆するように、今回西野氏が採り上げた量的データのコーホート分析結果からは、そうした若年層に働く選別の仕組みが今日においてより大学という高等教育への選抜システムに一元化する事実とともに、その後の地域移動をめぐる「選択」可能性にも不均等性が拡大しつつある点が指摘される。また、地域移動の「選択」を模索する中での彼・彼女たちの仕組みとの折り合いのつけ方について言及した質的データの分析結果からは、ライフステージの移行とともに、「選択」の正当性を支える現実的な仕組みも「選択」を後押しする社会的意味づけも多くないが故に、(Uターンという)「選択」の不確実性を前に「迷う」30代の姿が描かれる。進学・就職のような社会的な仕かけもなければ、リタイヤ世代の「田舎暮らし」のような新たな希望を喚起する社会的意味づけが作用しづらい当該世代においては、「選択」の不確実性が個人化されやすく、そこからもたらされるリスクにどのように対処するかの見通しが立たない限り「選択」へといたらない。そうした彼・彼女たちの「選択」の内実やそこにいたるプロセスを理解するためには、西野氏が一部試みたように、過去の自己の「選択」の肯定/否定、あるいは「迷い」を構成するナラティブを丁寧に読み解きつつ、それが社会的資源(地元とのネットワークやサポート等へのアクセシビリティ)や社会的な意味づけ、そしてマクロな社会編成とどのように結びつくのかを、「選択」を行う当人たちのまなざしから統合的に解釈していく営みが今回の報告以上に必要となろう。「移動」を繰り返しながら生活を組み立てていく対象を把握しその実態を解明するための方法論的反省と新たな分析枠組み構築の重要性を認識するとともに、そのためのプラットフォームとして地理学や社会学、その他多領域の学問が越境交流する都市学会が有効に機能していく可能性が垣間見えた一日だった。

 
【関東都市学会2017年度秋季大会を開催しました】

■ 開催日 : 2017年(平成29年)12月3日(日) 

■ 開催地: 東京都江東区

■ 主催 : 関東都市学会    

■ 会場 :森下文化センター3F第3研修室および清澄白河界隈

■ プログラム
【大会ワークショップ】 清澄白河 〈下町〉のリノベーション
12:40 受付開始 (受付場所および会場:森下文化センター3F第3研修室)
13:00 開会/開会挨拶  関東都市学会会長 熊田俊郎(駿河台大学)
13:05~13:50 街歩きインストラクション/コーディネーター 下村恭広(玉川大学)
13:50~15:30  街歩き (実際に清澄白河の街に出ます)
15:30~17:00  ディスカッション (会場:森下文化センター3F第3研修室)


■ 解題
ワークショップテーマ :清澄白河 〈下町〉のリノベーション
下村恭広(玉川大学)
 老朽建造物の改修と再利用について、リノベーションという語の使われる機会が増えている。リフォームが新築当時の価値の維持のための改修であるのに対して、リノベーションは古い建物から新しい価値を引きだすための改修である。近年はさらにリノベーションまちづくりやエリアリノベーションなど、建物単体にとどまらず地域再生の意味も含まれるようになっている。これらは学術的概念というより、ある特殊な市場の成立発展と結びついたバズワードとしての側面が濃い。そのため、その語が提起している都市の認識を理解するには、実際にリノベーションが進められている事例について、そこに固有の文脈と照らし合わせて吟味する必要がある。
 秋季大会では、以上のような観点を踏まえ、東京都江東区清澄白河に生じている近年の変化に注目し東京の〈下町〉の変貌の一環として、リノベーションの過程を捉えてみる。長く人口減少が続いたこの地域は、今世紀に入ってから地下鉄が開通したことを転機に、人口増加が始まっている。その転機は同時に、アートギャラリーやサードウェーブコーヒーの進出に象徴されるような変化を伴うものであった。

■ 印象記
<エクスカーション>
小山 弘美(東洋学園大学)
 関東都市学会2017年秋季大会が12月3日に開催された。大会は「清澄白河〈下町〉のリノベーション」と題しワークショップ形式にて進められた。まずは「街歩きインストラクション」として、コーディネーターである下村恭広氏より森下文化センターにて清澄白河の形成過程などまち歩きに向けてのレクチャーを受け、その後15時半まで各自グループを組むなどして清澄白河のまちを歩いた。
 森下文化センターを後にし、資料として配布された「清澄白河街歩きマップ」を片手にまずは一番近くにアートスペースとして紹介されていた「アートト」に向かう。他の参加者も集まっていた。ここは「アートとヨガ」を行うスクールである。その後は西深川橋を渡り南下した。この小名木川の川沿いや半蔵門線が地下を通る大通り沿いには、大小のマンションが立ち並ぶ。それ以外の細い道の路面には、2,3階建てで1階がもともとは工場や店舗だったような低い建物が連なる。シャッターが閉まったままになっている建物もあるが、いくつかリノベーションされておしゃれな飲食店や食器や小物のショップに生まれ変わっている店舗などが散見される。
われわれは、地図とカメラを持ち、そういった新しい店やギャラリーに入ってみるなどしながらまちを歩いた。住宅地のなかで異様な集団のように感じられるだろうと思ったが、地元の人たちはあまり気にもしていないようである。歩いている途中で、まちの外からやってきたのか若いカップルが何か紹介本のようなものを持って歩いているのを見かける。つまりここでは、案内図を片手に外から入っている人びとはあまり珍しくないようである。その他にも若いカップルが買い物袋を提げながらぶらぶら歩いている。近くのマンションに移り住んできた新住民であろうか。深川資料館通り商店街を過ぎた裏路地で、町内会の催しと思われる年末のもちつきのかたづけを行っていた。地図を持ってその横を通るグループには全く関心がないようである。旧住民の人びとの営みと、サードウェーブコーヒーなどで、おしゃれな街として外からこれを目当てに来る人々、新住民の人びとが、あまり関わりを持たずにこの街に存しているようなそんな印象をうける。
 その後は自分もサードウェーブコーヒーの店としては早い時期に店舗を構えたALLPRESS ESPRESSO Tokyo Roastery & Cafe で持ち帰り用のコーヒーを購入した。ここはもともと材木屋だったというが、一緒にいた地元の友人によると最近まで裏にはその事務所が残っていたそうである。しかしそこもすでにALLPRESS ESPRESSOが使用しているようであった。友人は「住んでいる者からすると、一時のはやりで終わらないで欲しい」と語った。新住民である彼らの言葉はやはり「住民」としてのものである。地域の催しをしている昔からの住民と、マンションなどに移り住んできた住民、またその傍らで若い人たちが集まるカフェやギャラリーなどの点在。今後のまちの変遷が気にかかる。大きく変化するまちの魅力に触れられる企画であった。

<ディスカッション>
畑山 直子(早稲田大学)
 清澄白河での街歩きを終えたあと、森下文化センターに戻り、下村恭広研究活動委員長の進行のもと、椎名隆行氏と調大輔氏を登壇者にお招きしてディスカッションが行われた。お二人のお話は、実際に清澄白河の街の様子を見てきた参加者にとって、清澄白河の変化の過程や現代的様相を理解する上で大変意義のあるものであった。お二人の経歴等を整理しながら彼らの街への関わり方をまとめた上で、ディスカッションの内容と所見を簡単に述べたい。
 椎名隆行氏は、「GLASS-LAB」の代表であり、清澄白河でさまざまな地域活動を牽引しているお一人である。2014年に設立されたGLASS-LABは、1950年創業の祖父の代から続く「椎名硝子加工所」の流れを汲み、カスタマイズグラスの企画・販売や椎名硝子の工場見学の受け入れなどを行うガラス専門店である。椎名氏は、椎名硝子の三代目にあたるが、加工所を引き継いだのは弟さんで、椎名氏ご自身はGLASS-LABを立ち上げるまで、不動産会社の営業マンとして働いていた。会社勤めをしていた頃も地元清澄白河に居住し、町会のみこしの担ぎ手として地域に関わっていたが、2014年に不動産会社を辞めるまでは、清澄白河の街が変化していく様子にほとんど気が付かなかったという。しかし、新しい住民層が増えていることは実感しており、彼らと旧住民との関わりがほとんどないこと、またみこしの担ぎ手をリクルートしてこなかったという意識が、2014年以降に椎名氏を地域活動へ向かわせることになったそうである。
 一方、調大輔氏は、豊洲にあるIT企業に勤めていることが縁で、2008年から清澄白河に居住し、2011年からウェブサイト「清澄白河ガイド」の運営やSNSを通じた清澄白河の情報発信を行っている。調氏にとって清澄白河という街は、東京であるにも関わらず自然豊かで、人と人とのつながりを生活の中で実感できる場所であるという。より多くの人に清澄白河の街の良さを知ってほしいという思いから、個人の活動として情報発信を始めた。「地元の人」である椎名氏に対し、「よそ者」である調氏の「外からの視点」は、街の良さを客観的に捉え、豊富な「情報」として伝えることを可能にした。そして、2014年にみこしの担ぎ手の写真を撮っていた調氏と、みこしの担ぎ手側であった椎名氏が出会い、一緒に地域活動を行うことになったという。
 以上のように、それぞれの経緯をお話しいただいた上で、お二人が主導している「コートーク」というトークイベントや「深川ヒトトナリ」というまち歩きイベントの内容を具体的にご説明いただいた。それを受けて、フロアからはたくさんの質問やコメントが出された。例えば、お二人の地域活動や周辺で起きているさまざまな動きと、行政の取り組みはどのように関わっているのかという問題である。また、清澄白河での実践は、地方都市でも成り立つのか、という問いも投げかけられた。これらの質疑応答の中で導かれたことは、清澄白河が現在のようにさまざまなモノやヒトを惹きつけながら魅力的な街として位置づけられるようになるための「地ならし」が、2010年以前にすでに済んでいたのではないか、という指摘である。1990年代の行政による河川や公園の整備、またそれらと連動したタワーマンションの建設による地価の上昇などが、その後の「サードウェーブコーヒー」の進出や、新住民の流入などを促したと考えられるという。これは、比較的長いスパンで行われた都市再開発の一つの帰結であるとともに、「リノベーション」された街を捉えるための新たな視点でもある。大変興味深い知見であるといえよう。
 最後に、椎名氏や調氏の地域活動では、「人」をとても大事にしているという点が印象的であった。お二人が活動の中心に据えてきたのは、清澄白河という街で暮らす人びとを新しくつないだり、時にはつなぎ直したりするという作業であったと思う。ウチとソトの境界をそれぞれの視点から意識することができたお二人だからこそ、「人」にフォーカスした実践が可能になっている。そして、お二人の実践は、今後さらに地域住民たちの新たな関係性の構築につながっていくのではないだろうか。


 
【関東都市学会研究例会を開催しました】

■ 開催日時:2017年9月17日(日) 15:00~17:30

■ 開催場所:早稲田大学戸山キャンパス 33号館3階第一会議室

■ 研究報告
(1)市町村議会機能の多様化と地域自治再構築の必要性-地方創生等をふまえた青森県内市町村議会機能のあり方に関する実態調査を中心にー
橘田 誠 (弘前大学客員研究員・法政大学大学院公共政策研究科兼任講師)
(2)リノベーションと都市構造
下村 恭広(玉川大学准教授)

■ 当日の印象記
関東都市学会研究例会 印象記              
杉平敦(帝京大学非常勤講師)
 台風迫る2017年9月17日(日)、早稲田大学戸山キャンパスで研究例会が開催された。
 第1報告、橘田誠氏の「市町村議会機能の多様化と地域自治再構築の必要性」は、全国一律の議会改革度調査で下位に沈んだ青森県内の市町村議会につき、同県市町村課の協力で行われた実態調査をもとに、実態に即した議会機能や地域自治の検討を求めるものであった。要旨は以下の通り。①確かに県内市町村では情報公開や住民参加が十分でない。②しかし人口の少ない自治体は、議員報酬や政務活動費の乏しさ、兼業議員の多さ、市町村合併で住民の声が政治に反映されにくい現状など、一律の評価基準にそぐわぬ実態がある。③それらを踏まえ、議会機能と地域自治の仕組みを「融合」させる制度を検討すべし。
 会場からは、前半の調査結果と後半の提言の関連性、最後に提言された「融合」の具体像、その「融合」と議会制民主主義との相克、などについて複数名から質問があり、概ね次のような回答が得られた。①議会制民主主義は否定しないが、市町村の実態から必要とされる議員像は、都市部でのそれとは異なり、一律の評価が意味をなさない。②そのため、全国調査からは見えない実態、そこで議員や議会が果たしている役割を可視化する必要がある。③その上で、自助共助で運営される地域自治組織の一員として、議員が現場の人たちの声を政治に反映させる、そういう役割を議会機能に取り入れていく必要がある。
 今回の提言は、議会制民主主義の理想的な姿ではないが、地方の市町村議会の厳しい現状を踏まえた現実的な対応として大きな意義があるだろう。住民の声を反映させる他の選択肢と比較検討した上で、「融合」の具体的なイメージを示していくことが期待される。

関東都市学会研究例会 印象記
猪瀬雄哉(常磐大学大学院博士後期課程研究生)
 第2報告は、下村恭広氏の「都市研究におけるリノベーションをめぐる問題圏」であった。これはリノベーションをめぐる問題関心の付置を整理した上で、都市研究にとってのリノベーションの意義を検討するものである。近年、老朽建造物の改修と再利用について「リノベーション」という用語が地域再生も含め使用されるようになった。本報告は今秋実施予定の関東都市学会秋季大会の企画に関連する報告であり、会場では老朽建造物が改修された様子の写真が多数紹介された。営利事業としてのリノベーションは事業の進め方の標準化が達成されることで成長を遂げるが、本報告では、そのような傾向に対して個々の事例の多様性に視点をあてることの必要性が提起された。その上で、様々なリノベーションの展開を生み出す要因として、「①都市構造変動」、「②老朽建造物の審美化」の2つの要因を検討している。
 会場からは、「リノベーションと結びつく諸事象の整理について収益性と公共性の両立している点がリノベーションの目新しさを印象付けている」との感想があった。一方で、「収益性を前提とした民間の人々の考え方と公共性をどのようにマッチングさせていくのか」という質問があり、「人々の老朽建造物に対する価値観の構造的な把握が必要」との回答があった。下村氏はリノベーションを収益性や公共性だけでなく創造性(価値創造としての再利用)の領域も兼ねて整理している。この3つの領域にまたがるリノベーションは地方の中心市街地活性化等、今後の地域再生のまちづくりにおいても非常に興味深い考え方であると言える。他に「老朽建造物の災害時の防災対策に関する議論はどのように進んでいるか」という質問が出たが、リノベーションにおける地域の防災を高める動きに関しては現段階で未調査であり、その点も含め、今後の更なる追究に期待したい。

 
【関東都市学会春季大会を開催しました】
■ 日時:2017年5月27日(土) 12:30~17:45
■ 場所:跡見学園女子大学文京キャンパス 2号館3階 2301教室
■プログラム
□ 自由報告 12:30~12:55
Bayansan Purevdolgor(高崎経済大学 大学院地域政策研究科)
「モンゴルにおける観光産業による地域振興 ウブス県を事例として」

□ シンポジウム 13:00~16:20 
【テーマ】市民参加型政策形成における都市学会の役割
【シンポジウム趣旨】
研究活動委員長 下村恭広
 昨年の日本都市学会特別セッション「新しい都市学の成立を目指して」で問われたのは、都市学という学際的研究が何を主柱に成り立つのかであった。このセッションに向けた議論を通じて、学際性の要となっているのは、都市政策の実務家と研究者との橋渡し、その意味での学問の応用性であるという認識が深まった。春季大会のシンポジウムでは、この認識を踏まえて今後の都市学会のあり方を、さらに掘り下げる。
 都市学会は、高度経済成長と開発政策、それに伴う市町村合併や都市人口の急増のなか、都市政策の構想とそれをめぐる知識への需要に呼応して設立された。そのため、設立当時は実務家と研究者が交流できる場としての意味が大きかったが、その後シンクタンクのような調査機関が増えていくなかで、当初の役割を失っていく。
今日の都市政策の現場では、実務家と研究者とのつながりは新しい形で問い直されている。「地方創生」を受け、総合計画などの自治体の基本的ビジョンの策定において、行政計画やそれをめぐる知の生産に新たな需要を生みだしている。しかし他方で、中央官庁やそれと結びついたシンクタンクによって提示された手法でその需要が画一的に対処され、都市政策をめぐる知の集権的性格が強まっている。
 以上はこれまでの議論で言及された一部の事例に過ぎないが、現在学会が置かれている文脈を省みながら、今後の都市学会が果たすべき役割の展望を開いていく必要がある。そのためには、都市政策における研究者と自治体実務家だけでなく、市民セクターとの関係を検討しなければならない。今回のテーマに「市民参加型政策形成」を掲げたのは、この点を企図している。また、研究者と実務家の関係が、都市学会という場でどのように変わってきたのか、その移り変わりの記憶を学会として共有しておくことも求められる。
 このシンポジウムは以上の二点を論点とし、これからの都市学会の展望を深めるための、ひとつのステップとして位置づけたい。

【解題】
小山 弘美 (東洋学園大学)

【基調講演】
戸所 隆 (高崎経済大学 名誉教授)

【コメンテーター】
河藤 佳彦 (高崎経済大学)
熊澤 健一 (公益財団法人 科学技術広報財団)
平井 太郎 (弘前大学)

【共同討議 司会】
熊田 俊郎 (駿河台大学)
小山 弘美 (東洋学園大学)

□ 総会・理事選挙 16:30~17:45

□ 懇親会 18:15~20:15


関東都市学会 研究例会を開催しました】

■ 開催日時:2017年3月25日(土) 15:00~17:30
■ 開催場所:東洋大学白山キャンパス 8号館2階8202教室

■ 報告
「若手研究者から見た実践と研究との接続」
小山弘美(東洋大学社会学部)・野坂真(早稲田大学大学院文学研究科)

■ ディスカッション
「市民参加型政策形成における都市学会の役割」を考える―春季大会に向けて

■ 当日の印象記
関東都市学会研究例会 印象記
山本匡毅(相模女子大学)

 2017年3月25日(土)に関東都市学会研究例会が東洋大学白山キャンパスで開催された。今回は、昨年度の日本都市学会特別セッションや、今年度の関東都市学会春季大会のテーマを踏まえ、「若手研究者から見た実践と研究との接続」が共通テーマとして設定された。
 第一報告は、小山弘美氏(東洋大学社会学部)から「研究者がどのように実践の役に立てるのか」という観点で行われた。小山氏は自らのせたがや自治政策研究所における特別研究員としての経験をもとに、都市社会学が政策と関わってきた手法を検討した。小山氏が研究所において、住民力としてソーシャルキャピタルを社会地図にまとめた時、地図が物議を醸しだし、問題化したことがあったという。住民力は個人のソーシャルキャピタルの集合であり、地域のソーシャルキャピタルを示したものではないが、住民の受け止め方は異なっていた。地域のソーシャルキャピタルは、日本では地域ごとに基準が異なるため、簡単には使えないと結論づけた。また小山氏は研究所でワークショップのコーディネータ、SPSSの研修講師、他所管課の政策立案支援にも携わり、その中で研究者の可能性として、対行政では個別的・創造的な解決、対住民では行政マンでは解決できない感情的・一時的な問題へ入る役割、住民対行政ではデータで緩衝剤役を果たせるとした。
 第二報告は、野坂真氏(早稲田大学大学院文学研究科)から「大槌町安渡地区の事例」に基づいて行われた。野坂氏によると、東日本大震災のような災害時の政策形成は、平時との連続性の中で潜在的な社会変化を顕在化させ、変化を加速するという。他方で災害時の特殊性として、災害時の政策形成の経緯の忘却、及び災害時の議論の経緯の忘却が進むため、災害時には協議を記録して積み重ねていくことが大切であるとした。大槌町安渡地区は、地域防災計画を策定する際に、町内会の役員、研究者、コンサルタントが連携して検討会を運営した。検討会において地域防災計画のルールを議論する中で、議論の分岐点が生じたという。この分岐点は議論の記録があるために確認でき、住民は次の災害の時に地域防災計画のルールの存在理由が分かるようになっている。このプロセスは、ボトムアップ型の政策形成や、政策形成における分岐点の記録などが評価できる一方で、政策形成の場に大規模な事業所がいかに関わるかや、復興施策において議論の忘却が始まっていることが課題として提起された。
 今回の二つの報告は、自治体シンクタンクや震災復興という実践の現場から考察であり、政策へ関与することを実践してきた都市学会の議論として刺激的であった。一方で、都市学会が市民参加型政策決定に関わる中で、自治体シンクタンクが行う市民研究員制度のように、政策決定に関与する人材育成を如何に行うのか、あるいは研究者が教育している学生が都市研究のフィールドワークを行う際に、政策決定へ如何に関わるのかという点は、議論されなかった。かかる議論の深化が2017年度関東都市学会春季大会で進むことを期待したい。


【関東都市学会2016年度秋季大会を開催しました】

■ 開催日:2016年(平成28年)11月27日(日) 

■ 開催地:東京都文京区

■ 主催 :関東都市学会/共催:日本都市学会

■ プログラム
□ エクスカーション(10:00~12:15)
文京区内のまちづくり関連施設・史跡・午後のワークショップ参加者の活動の場所等を巡りました。
案内:関賢二(東洋大学参与・元文京区副区長)、安達毅(白山前町町会副会長)
主なルート:後楽園駅周辺→文京区民センター(フミコム)→菊坂周辺(旧伊勢屋質店=現菊坂跡見塾など)→源覚寺(こんにゃくえんま、小石川マルシェ会場)周辺→白山下地区(旧白山三業地)→白山神社→東洋大学周辺

□ ワークショップ「都心回帰後のまちづくり―東京都心における協働のまちづくりを目指して―」(13:30~17:00)
会場:東洋大学白山キャンパス8号館2階8204教室
13:30~ 開会
13:30~13:40  開会挨拶  関東都市学会会長 熊田俊郎(駿河台大学)
13:40~15:10  事例報告とコメント
コーディネーター土居洋平(跡見学園女子大学)・西野淑美(東洋大学)
解題    西野淑美(東洋大学)
事例報告(1) 田邊健史(フミコム 活動支援コーディネーター) 
事例報告(2) 秋本康彦(白山神社 宮総代)
事例報告(3) 杉田幸一郎(会津屋/小石川マルシェ実行委員会)
コメント  関賢二(東洋大学参与・元文京区副区長)
       小山弘美(東洋大学)
15:10~15:20  休憩
15:20~16:45  グループに分かれてディスカッション
16:45~17:00  全体でのまとめ

□ 交流会(17:00~19:00)
会場:東洋大学白山キャンパス8号館1階研修室(立食形式)

□ ワークショップ解題
「都心回帰後のまちづくり―東京都心における協働のまちづくりを目指して―」
土居洋平(跡見学園女子大学)
 都市居住の新しい動向として都心回帰が指摘されはじめてから、既に10年以上が経過した。都心には超高層・低層問わず新しいマンションが次々に建設され、30代から40代とその子ども世代を中心に、都心の新住民が存在感を増している。こうした新住民の多くは高学歴で所得水準も高く、職住近接の利点を活かして、まちづくりに参加の意思がある場合も多い。一方で、都心の住宅地の場合、伝統的な自治会・町内会組織の活動も活発であり、様々な地域活動が自治会・町内会単位で行われている。また、近年の大学の都心回帰、あるいは大学に対する地域との協働や地域貢献への期待の高まりから、都心地域において大学が地域と連携して活動をする機会も増えてきている。
 このように、都心のまちづくりにおいては、新旧様々なアクターがまちづくりに関わるようになっており、現在、様々な形でその協働が模索されている。
 そこで、今回は文京区を事例に、学会会員はもちろん、区内のまちづくりに関わる町内会・自治会、新旧住民、まちづくり支援組織、行政、企業、そして大学等の諸アクターが集い、都心における協働のまちづくりのあり方について議論する場を設けたい。
 近年、関東都市学会や日本都市学会においては、新しい都市学の姿を模索するなかで、「都市学とは何か」ということが再検討されてきた。その中で、都市の現場に専門分野を超えて関わる場の存在が、都市学の成立にとって重要である点が指摘されている。
 その観点に立ち、従来の秋季大会でおこなってきたシンポジウム形式ではなく、参加者の発言の自由度が高いワークショップ形式で行い、都心における協働のまちづくりについて、その課題や論点、様々なアイディアを広く共有する場とし、新しい都市学の姿の一端を示す機会としたい。

■当日の印象記

<エクスカーション>
野村 一貴(東京大学大学院新領域創成科学研究科 修士課程)
 2016年度秋季大会のエクスカーションでは、関賢二氏(東洋大学参与)ならびに安達毅氏(白山前町町会副会長)にご案内いただき、文京区の協働の現場を、中間支援の体制と協働を媒介するコンテンツ、というそれぞれの視点から見学をおこなった。具体的には、文京シビックセンターを出発点とし、文京区民センター、旧伊勢屋質店、 源覚寺、 旧白山三業地、白山神社を経由して東洋大学白山キャンパスへ至るというルートを辿った。
 シビックセンターを出て最初に向かったのは文京区民センター内に設置されている文京ボランティア・市民活動センター(フミコム)である。2016年4月にオープンしたばかりの新しい施設であり、団体登録をおこなうことで活動室やメールボックス、印刷室などを使うことができる。田邊健史氏(フミコム活動支援コーディネーター)の説明によれば、社会福祉協議会の時には80前後であった登録団体数がフミコム設置後は160以上に増えたという。市民活動を進めていくうえでの障害となりうる所に焦点を当てた的確な支援体制が整っている裏返しといえよう。
 フミコムから数百m離れただけで、街の様相が一変する。古い木造家屋が軒を連ね、道幅は1mに満たない区画が並ぶ。菊坂沿いに、樋口一葉がたびたび通ったといわれる旧伊勢屋質店(菊坂跡見塾)がある。建物は国の登録有形文化財に指定されているものの、所有者が売却の意向を公表。一時は更地にして売り出すとの話もあったが、区の仲介をうけ2015年3月に学校法人跡見学園が購入、11月から一般公開が実現している。ここでは、解説だけでなく土を利用した防火設備や質札を再利用したハタキや襖などを目にする(更には、普段は非公開の店舗兼住宅2階部分も見せていただいた)ことで、建物が使用されていた明治~昭和前期における生活の一端を垣間見ることができた。この一帯は戦災を免れたことで同じような建物が密集している地区であり、伊勢屋から菊坂を挟んで反対側の区画には樋口一葉の旧居跡も残っている。街並みからもその時代の生活文化が伺えるが、建物内部も見学できたことでより重層的に理解することができた。
 その後、小石川マルシェの会場となる商店街を経由し、白山一丁目のあたりに広がっていた三業地の跡地へ向かった。こちらも白山通りから一本奥に入っただけだというのに、木造家屋が数多く残っていた。とりわけ白山通り沿いは斜線制限の影響もあるのかビル化が顕著であり、より落差が際立っている。かつて三業地であっただけあって、黒塀を残す建物や、かつての石畳の名残であろう御影石がアスファルトから道の端だけ顔を出している風景が見られた。秋本康彦氏(白山神社宮総代)が説明するには、かつてはここ一帯に石畳が残っており、そこによく住民は打ち水をしていたという。路地のすべてが石畳の路地が残っていないか探してみたものの、この日のルートでは残念ながら見つけることができなかった。
 白山一丁目に向かうまでに歩いてきた白山通りは、下を三田線が通る前は都電が走っていた場所であった。道路幅も現在の半分であり、拡幅した側の本郷台側に並ぶビルの中には、連棟式建築を切り離して道幅を合わせたものも見られた。また、旧三業地では、セットバックで電柱が取り残されている箇所も発見したが、これは近い将来に三業地時代の建物が消滅する可能性を示している。常にまちづくりが進められてきた痕跡を目の当たりにし、残された菊坂界隈と消えてゆく三業地の文化資源の対称性に気づかされる。細い道幅は確かに防災上の観点からは不適切だが、ここで培われてきた生活文化を残すものとして、街並みが一体として維持されていることには特筆すべき場所性がある。しかし、仮に文化遺産としての価値判断がおこなわれたとしても、伊勢屋の例を挙げるまでもなく、民間で維持していくのには限界がある。ここでは、文化資源に対する行政のスタンスの一貫性、更にいえば、実体として残せずとも「地域の記憶」をどう継承していくか、という空間認識の一貫性が問われているものと感じた。
 街を実際に歩いて印象的であったこととして、想像よりも大きい地形勾配が挙げられる。シビックセンターから鳥瞰した際には大通りなどによって辛うじて推定できる程度であった地形も、歩いてみると急峻であることに気づかされる。これは、南西向きであるがための永年の凍結融解作用によるものか、基盤構造に起因するものか定かではないが、白山台側と比べても急峻であるように思われた。こうした地形の特質は、鳥瞰して読み取ることのできる土地利用の違いと組み合わせることで、歴史の中で培われてきた空間認識を浮かび上がらせる効果を持っている。一方で、どちらかでは不十分であるという点からして、現在の空間認識の断絶性が示されたのではないであろうか。
 今回のエクスカーションを通じては、文京区は協働の手がかりとなる豊富なコンテンツを有し、行政も支援体制を整えているという実態が明らかとなった。ただ、こうした生活文化を反映させた場所性と、中間支援の充実は同じ方向を向いていないように思われた。そして、それらが組み合わさって創出された「協働」とは生活空間を構築していく試みとして同じ方向を向いているのか、という点について今後明確にしていく必要性を感じるに至った。

<ワークショップ>
 ワークショップでは3つのグループに分かれ、報告者と大会参加者との間で様々な意見を交換した。以下、各グループでの印象記を記録係がまとめた。
【第1グループ】
杉平敦(学習塾講師・ヘルパー)
 西野淑美会員が司会となり、事例報告者の田邊健史氏への質疑を中心に議論が進められた。前半では、世代や在住期間などを異にする人々が協働することの難しさが主題となった。その中で、そもそも地域の活動に参加しない人々がいることは前提としておくべきこと、参加者の間でも目的や方向性を擦り合わせるには充分な時間と手間をかけなければならないこと、などが話し合われた。
 後半では、近年の都心回帰などの新住民増加による地域環境の変化に伴う地域活動の関わり方が困難になっていることが主題となった。地域活動の活動者からは、マンションに住んでいる方の情報が得られないので、参加への声かけが難しくなった、という悩みが生じている。新旧住民の双方が、地域活動の参加・継続の意義を見失いつつあるそうだ。解決策として、住民が様々な機会に気軽に参加でき、その後の活動継続は強制ではなく参加者自身が決めるという、緩やかなシステムを作ることなどが提案された。
 前後半の両方で田邊氏が強調したのは、コーディネーターには「活動を初めて知った人の目線(よそ者)による気づきの質問をかける」役割があることであった。都市における協働によるまちづくりには、社会状況の変化が大きな中で、地域活動に従事している方たちに、今の活動の価値について考えるキッカケを提供して、今の地域に必要な協働の可能性を拓く問いかけをしていくことが必要であるということである。

【第2グループ】
野坂真(早稲田大学大学院)
 事例報告者の秋本康彦氏(白山神社 宮総代)とともに、旧来からの住民と、大学生や再開発後にマンションなどへ移り住んできた「新住民」との関わり方について、小山弘美会員を司会に活発な議論が行われた。
 前半では、まず、秋本氏に質問する形で、文京区内にはおみこしを管理する町会や神社の氏子組織ごとにまとまりがあり、古くからの地域組織単位のまとまりが残る多様な特性を持つ地域であることが確認された。しかし同時に、地域行事を支えてきた商店(特に酒屋や米屋)が多く廃業していく中で、これまでとまったく同じように地域組織を運営していくのは難しくなっていることも確認された。次に、大学の都心回帰や再開発による高層マンション建設にともない、ある種の「新住民」との関わり方を再考する必要があることが課題として提起された。特に、地域と大学との関わり方は大きな課題で、アパートの家賃が高く学生が周辺地域に住んでおらず買い物をしないが、通学路として地域を通り抜けるため、両者のコンタクトは必要ではないかという意見が提示された。
 後半では、前半の課題を受け継ぎながら、さらに議論を重ねた。まず、具体的な地域行事の中で、どのように人々の関わりを活性化するよう工夫しているかを確認した。小石川マルシェでは地域の人々にお店の存在を知ってもらうことを重視していることや、お祭りでは若い人を取り込む様々な工夫がなされていることが確認された。最終的に、マンション住民には地域行事を通じ子どものころから「地域」に関心を持ってもらうこと、大学生には社会デビューの場として地域に出てくるよう教員が促すことが大事ではないかという展望が示された。特に後者は、各大学が真の意味での「都心型大学」になっていく上で重要な視点であるという結論も示された。
 かつて都区内の大学の多くでは、その周辺地域で学生と地域住民とが様々な関わりを持つ中で、「学生街」という個性的な雰囲気を持つ空間が形成されていた。そこでは、卒業生と地域住民との関係にも支えられた信頼関係が存在することで、一種の社会教育が実践されていたのではないか。地域および大学は、大学の郊外化の中で何を失い、また都心回帰の中で何を取り戻そうとしているのかを、もう一度問い直すべきときなのかもしれない。

【第3グループ】
畑山直子(早稲田大学)
 小石川マルシェ実行委員会の杉田幸一郎氏に加わっていただき、地元の商店や町会と、新しい住民の関わり方について、石神裕之会員を司会に活発な議論が行われた。
 杉田氏は、江戸時代から続く会津屋(漆器店からはじまり現在は食器を総合的に扱う)の11代目であり、2011年6月に開始した小石川マルシェを牽引してきたお一人である。杉田氏の事例報告では、小石川マルシェの取り組みや成果が紹介される一方で、地域に新たに参入した住民たちが、なかなか地元の商店で買い物をしないという現実も報告された。
このような「地元の商店と新しい住民の関わり方」という論点をめぐって、ワークショップでは、30代や40代の子育て世代を中心とした新住民たちが、日常的に地域の商店で買い物をするような仕掛けづくりについて意見が交わされた。いくつか出された提案に共通していたのは、「この商品をこの人から買いたい」という思いや、消費行動において「安心感」や「信頼」をもてることの必要性であった。言い換えれば、30代・40代のライススタイルに、安さや便利さとは異なる、さまざまな付加価値をつけるような取り組みが求められているということであろう。このように考えると、小石川マルシェの取り組みは、すでにその一つの方法を見せてくれていると思う。新住民が、自分たちの生活圏に商店があるということに気付き、生活の動線にそれを組み込んでいくようなプロセスが、「地元の商店と新しい住民の関わり方」において重要なのではないだろうか。

 最後に、各グループの議論の結果を全体に共有して会を閉じたが、その後の懇親会でも活発な議論が参加者同士でなされた。今回、本会大会では初めてワークショップ形式での意見交換の場を取り入れた。大会開催地域の関係者との意見交換をより深く行える新たな方法として、新たな動きを感じられる大会だったように思われる。

 
秋季大会・ワークショップの様子
 
【2016年度 第1回研究例会を開催しました】

■ 開催日時:2016年9月24日(土) 15:00~17:30

■ 開催場所:早稲田大学早稲田キャンパス 8号館3階311教室

報告1 放射線治療施設の配置計画に関する研究
舩岡 伸光 (町田市役所都市づくり部地区街づくり課)

報告2 新しい都市学の成立を目指して
川副 早央里(早稲田大学文学学術院)

■ 当日の印象記
関東都市学会研究例会 印象記      
小山弘美(東洋大学)
 2016年度第1回関東都市学会研究例会が9月26日に早稲田大学早稲田キャンパスで行われた。まず第1報告として、舩岡伸光氏(立命館大学大学院・町田市役所)による「放射線資料施設の最適配置に関する研究」の発表があった。舩岡氏の研究例会での報告は3月にも行われており、その発展的研究成果の報告が期待されるところである。まずは、放射線治療の利点が示され、そもそも高齢者やがん患者が日本社会において増加している現状が確認された。放射線の治療体制の現況としては、地域により差がある点、放射線治療の体制と適用割合が相関していない点、今後放射線治療患者の増加が予測されるため、より一層の治療体制の整備が必要とされる点が指摘された。最後にがん治療の均てん化を目指すために、放射線治療施設の最適配置を考えるため、患者のアクセシビリティを考慮し、放射線治療施設までの距離について定式化したものが提示され、今後神奈川県を事例に最小値の算出を行うとし報告が閉じられた。発表後のフロアからの質問は、この研究の目的は何であるか、定式化することによって何がわかるのか、という大きな問題が指摘され、これに関わる細部についても質問が繰り返された。報告と質問のやりとりを聞いて、放射線治療を均てん化しなければならないという舩岡氏の思いはよく伝わったのであるが、研究が扱うテーマについての問題点や目的、結論の方向性や意義について、論理的かつ説得的な提示がなければ、発展的な議論につながらないのではないかとの印象を受けた。

関東都市学会研究例会 印象記
杉平敦(学習塾講師・ヘルパー)
 第2報告は、本年10月に開かれれる日本都市学会・岡崎大会の「新しい都市学を考える特別セッション」に向けての事前報告であった。川副早央里会員が代表して登壇した。
 本報告は「回顧と展望」をキーワードに都市学(会)の歩みを振り返りつつ今後の構想や課題を考えるものであった。そもそも日本都市学会が設立されたのは、当時の都市問題に対して学際的・実践的に取り組む必要があったからである。ならば、当時の都市問題に当たるものが現在の都市にも存在するか、(もし存在するなら)それらの問題には学際的・実践的なアプローチが今も有効であるか、こうした問題意識から検討が進められてきた。
 都市学会は、昭和30年代には「総合調査」として特定の都市を様々な学問分野の見地から調査し、40年代には「都市学の成立」をしきりに主張するようになった。そして、いずれの試みにおいても総合性や学際性が目指されつつ、それを充分に実現することなく、各学問分野からの成果が併置される結果になったという。そしてその状況は、総合性や学際性への志向が当時ほど明確ではない今日においても、なお続いているといえよう。
 確かに、都市や学問を取り巻く環境が当時とは大きく異なる今日、都市学に求められる役割は以前と同じではありえない。しかし、この人口減少・高齢化社会においてこそ、かつて目指された学際的・実践的なアプローチが意味を持つのではないか。こうした意識から、本報告では今後の都市学が取り組むべき課題として、以下の3つを示した。開発で顕在化する貧困・格差問題の深刻化、災害と危機、そして、地域・都市のかたちである。
 これに対し、会場からは数多くの質問や指摘が出された。まずは、かつて行われた「総合調査」の実態や、かつて目指された「都市学」の構想、都市学会の姿勢の時代毎の推移など事実関係の確認があり、それらを踏まえた上で学際的・実践的アプローチの意義が再確認された。その他には、専門性の純化を求める声に抗い総合性を目指すことの意義、そうすることでしか解決できない諸問題の存在などが指摘された。つまり会場からの声の多くは、都市学の方向性としての学際性・実践性や総合性への志向を擁護するものであった。
 とりあえずは都市学会の内部でこうした取り組みへの賛同が得られたことを喜ぼう。しかし、それが学会の外部に対してどの程度の説得力と有効性を持つものかは厳しく検討されなければならない。特に、報告の中でも触れられた実務家との協働などについては、実務家の参加が減少し研究者が大部分になりつつある都市学会の現状を省みる時、彼らの参加を再び促すために何が必要であるか、学会を挙げて考察を深めていく必要があるだろう。

 
【関東都市学会2016年度 春季大会を開催しました】

■ 日 時 2016年5月21日(土) 13:00~17:40

■ 場 所 専修大学神田キャンパス 5号館4階 542教室

■ プログラム
□ 自由報告(13:00~13:50)

廣部恒忠(明海大学)
「生活保護率などの労働統計指標に基づく地理空間的相関分析」

金子光(明海大学)
「都市政策と会計検査院-東京五輪(2020)に向けた都市の創生を事例として-」

□ シンポジウム(14:00~17:00)
「誰のため」「いかにして」の景観論を超えて―美観論争なき丸の内の再開発 
【企画趣旨】
若手研究会(杉平・川副・畑山・宝田・野坂・細淵)
 近年、都市の景観をめぐってさまざまな議論が蓄積されてきている。1990年代に各自治体で景観条例が次々に整備され、2000年代に「景観三法」が制定されたことはその一例である。また、「何が『よい景観』なのか」「『よい景観』をいかに保護するか」をめぐって、住民による景観保護運動も各地で展開されている。
 しかし同時に、1990年代末の「都市再生」以降、過去に類を見ない大規模な景観の刷新が、各都市の既成市街地で一挙に進む事例も増えてきている。本来であれば、その街の景観を共有する各主体間の対立や論争があって然るべきであるが、それが見えにくくなっているとも捉えられる。つまり、「良い景観」なるものが、「誰のための」「誰にとっての」ものなのかが、今や明確に見て取ることが難しいのである。この流れは、(特に東京周辺では)2020年の東京五輪までは続くのではなかろうか。
 こうした現状を受け、今回のシンポジウムでは、東京・丸の内を取り上げる。そのテーマは、従来の景観論でよく扱われる、「誰のための景観か」「どのような景観が良いのか」「それをいかにして実現するか」といったものではない。むしろ、「どういうときに」「どのように」景観が問題とされてきたかを問うものである。検討すべきは、景観をめぐる対立や論争が、実際には誰による何をめぐる争いであったのか、である。
丸の内は、東京駅と皇居に挟まれた伝統的な中心業務地区である。それ故に、ほとんどの土地が民間企業に所有されていながら、首都・東京の玄関口としての象徴的な役割を求められてきた。必然的に、同地の景観がいかにあるべきかについての議論は、今日まで散発的に繰り返されてきた。それが、ここ10数年の間で、大型化・超高層化が一気に進み、街区のヴォリュームやスカイラインは大幅に更新された。加えて、仲通りにはブティックなどのテナントが進出し、街区の印象も劇的に更新されてきている。
 今回、都市の景観を論じるに当たって、特に丸の内を取り上げる理由は幾つかある。まず、(1)今と比べて景観に対する市民の意識が希薄な時期に、2度も論争となった先駆的な事例であることが挙げられる。しかし先駆的であると同時に、(2)景観の判断の主体となるはずの住民が存在しない、特異な事例でもある。さらに、(3)他の街区との差異を減じる「普遍化」と、当該街区の固有性を強調する「特殊化」が同時進行している事例でもある。また、(4)潜在する対立が見えぬまま急速な開発を進める、1990年代末以降の「都市再生」の典型でもあると言えよう。
 この街区の景観論について、「歴史と現在」「言説と実践」を比較するのも興味深い。以前は各主体が各々の価値観を提示し、それらの間に対立・論争が散発していたものが、今では各主体が旧来の価値観を維持したまま、不思議な協調関係を保持している。また、特に東京都の景観行政を中心に、旧来の「象徴性」「威容」「統一感」という理想像が反復される一方で、実際には各主体の協調による過去に類を見ない景観の刷新が急速に進んでいる。つまり、主体間の対立構造が見えない中で進む未曾有の大規模開発、そして、他のどことも変わらない景観を創出する一方でその街の固有性を強調しようとする両義性において、丸の内は各都市の各街区で進む景観の刷新を見る上で、何らかの示唆を与える事例と言えるのである。
 はじめに、杉平敦が丸の内の景観変容について、現時点での各主体の景観概念・開発思想を中心に概説する。次いで、現状へ至る歴史的経緯について、松橋達矢氏からは国や都や諸企業など様々な主体が交渉し合ってきた過程として、中島直人氏からは市民・国民の景観意識・美観運動の観点から、それぞれご説明いただく。
 こうした3つの視座からの分析に加えて、吉見俊哉氏と近森高明氏から、コメントをいただく。同じ丸の内という街区を、時の権力が自らの威信を誇示する重要な舞台として捉えるか、他の街区と同じように無印化して気軽な消費活動に開かれていく場所として捉えるか、そしてそれらがどう関連するか、活発な議論が期待される。
【司会】
 野坂 真  (早稲田大学大学院)
【報告者】
 杉平 敦  (本会若手研究会)
 松橋 達矢 (日本大学)
 中島 直人 (東京大学)
【コメンテーター】
 吉見 俊哉 (東京大学)
 近森 高明 (慶応大学)

□ 総会(17:10~17:40)

□ 懇親会(18:00~20:00)

■ 印象記

2016年度春季大会自由報告印象記
岩武 光宏(東京交通短期大学)
 2016年5月21日(土)、専修大学神田キャンパス5号館にて、関東都市学会春季大会が開催された。
 自由報告は2本であり、まず、廣部恒忠氏(明海大学経済学部教授)による「生活保護率などの労働統計指標に基づく地理空間的相関分析」の報告が行われた。総務省統計データに基づき、我が国の生活保護率に関する地域間格差について、生活保護率を含む幾つかの労働統計指標を用いて、地理空間的相関分析による地域特性を統計的に考察したものである。なお、この場合の地域とは47都道府県を意味している。その結果として、空間的自己回帰性よりも空間誤差に拠るモデルシミュレーションの方が有意に妥当であり、生活保護率格差は、完全失業率、持ち家率、高齢夫婦世帯比率の3要因のみの格差評価に拠って、良好な予測モデルが構築できることが分かったと示している。このような研究の場合、地理的集計レベルが重要になることにくわえて、生活保護に関する行政上の窓口対応による地域間格差はデータからは読み取れない領域であることも指摘されよう。すなわち、マクロとミクロの接合部分であり、デリケートな部分でもあるため、データ上で正確に反映されるものとはいいがたい。しかし、地理空間的相関および空間的依存性の傾向について、空間統計学および空間計量経済学的アプローチによる検証という最先端の手法を用いて分析を行なうことは野心的であり、この手法を用いることが本研究における最大の意義と考える。今後はシンプルかつ明確にして政策立案上で貢献度の高い因果関係の抽出が求められよう。
 つぎに、金子光氏(明海大学経済学部准教授)による「都市政策と会計検査院-東京五輪(2020)に向けた都市の創造を事例として-」の報告が行われた。2020年の東京五輪に向けて、都市の創造が進められ財政支出が増加する一方で、政府は財政再建を進めながら2020年のプライマリーバランス黒字化という現状における二律背反的目標を掲げている。そのため、予算編成のイノベーションをどのように展開すべきか、重要かつ喫緊の課題である。本研究では、1964年の東京五輪、さらにアメリカの会計検査院の事例から学びつつ、オリンピックと行政改革・予算編成のイノベーションの関係を多面的に整理し、2020年の東京五輪を予算編成の新たな展開の契機とするための可能性と課題を明らかにすることを目的としている。とりわけ、浅見(2015)、中井(2015)、和田(2011)の先行研究を踏まえて、政策決定における地域住民(選手村の建設が予定される中央区)の関与について報告された。具体的には、選手村に関わる公共交通の課題(BRT導入の決定プロセス)における中央区・地域組織・住民などの多様なアクターの重層的な構造および相互の複雑な連携・調整の関係を明らかにしている。このように「選手村」をはじめとしたオリンピックへ向けての都市創造は一過性のものではなく大会後のレガシーを見据えての長期的なものが求められよう。そのためには、第一次臨調と都市政策の今日的意義の抽出は不可欠なものであり、「東京五輪と都市創造」「東京五輪を契機とした財政再建」という2つのテーマは車の両輪の如く進展すべきであろう。今後のさらなる研究を待ち、オリンピック前後を見据えた都市における持続的な政策立案に大きく寄与することを願うものである。

2016年度春季大会自由報告印象記
長谷川 圭亮(日本大学文理学部学生)
 2016年度関東都市学会春季大会は駅からもアクセスのよい専修大学神田キャンパス5号館4階の542教室で行われた。
 自由報告の第一報告は、明海大学の廣部恒忠氏による「生活保護率などの労働統計指標に基づく地理空間相関分析―空間誤差モデルなどによる地域間格差の特徴についてー」であった。本報告では、最初に研究の目的が述べられ、総務省統計データに基づき、日本の生活保護率に関する地域間格差について、生活保護率を含めたいくつかの指標を用いて、地理空間的相関分析による都道府県別の地域特性の統計的考察を行うということが述べられた。その背景として生活保護率は地理的に見てかなり大きな地域間格差が存在し、生活保護に関する地域研究とりわけ地域間格差を扱った実証研究は希少であること、生活保護率格差に関して、有意な影響を与えている要因等についてはまだ研究途上であることが挙げられる。研究の結果、生活保護率格差は、①完全失業率②持ち家率③高齢夫婦世帯比率の3要因のみが生活保護率格差に良好な予測モデルを構築できる点で影響を与えることが分かったと報告された。
 今後、3要因の数値の高低は一定の地域に偏ったものではない。(例として完全失業率が高いのに持ち家率が高いことなど)ので、どう数字を処理するかを意識するかという点に関して期待したい。
 第二報告では明海大学の金子光氏による「都市政策と会計検査院―東京五輪(2020)に向けた都市の創生を事例として―」であった。本報告では、オリンピックと行政改革・予算編成の見直しの関係を整理し、東京五輪(2020)を予算編成の新たな展開の契機とする可能性と課題を明らかにすることを目的とした。都市マネジメントの持続において民間主体も連携(浅見,2015)、地域の合意形成が不可欠(中井,2015)という先行研究を踏まえ、選手村建設予定地である中央区を事例に取り上げた。第一に公共交通決定プロセスとしてBRTの導入、第二に選手村モデルプランが挙げられる。選手村は大会後、住宅棟として利用されるが、管轄部署が数多くあり、総合性の確保が課題である。この課題から中島(2016)のビジョンプランが見えにくいとの指摘に対し、強いリーダーシップが求められるという。東京五輪(1964)の教訓として政策の総合調整と住民参加の行政を進めていくことが求められる。今後の課題としては都市基盤の整備のほかプライマリーバランスの黒字化に向けての予算編成の見直し、オリンピックと財政再建の両立が予算編成の見直しを育み、それを持続可能な財政の構築へつなげていくことが示され発表を終えた。
 オリンピックというビックイベントによってスウェーデンの国家予算に匹敵する予算を持っている東京都でも財政に大きな影響を与えることは言うまでもない。今後の展開としては、東京オリンピック計画は政治的に最近、流動的であるので、多くの観点から研究が出てくるであろう。
 都市学の観点では、都市という空間でも産業や社会保障、ビッグイベントや行政予算といった多様な枠組みから分析できることが改めて明らかになった。今回は地理学や経済学からの視点だったが、他分野にも応用でき、幅広くものを見る学問が都市学だと考える。

2016年度春季大会シンポジウム印象記
川副 早央里(早稲田大学文学学術院)
 自由報告に続いて、春季大会シンポジウム「『誰のため』『いかにして』の景観論を超えて―美観論争なき丸の内の再開発」が開催された。この企画は、杉平敦氏を中心に若手研究会として構想してきたものである。筆者も若手研究会の一員として本シンポジウムの企画段階から参加してきた。
 通常は、大規模地域開発や景観刷新が進む際には、各主体間がそれぞれの価値観を提示し、それらの間に対立が生じることが多いが、丸の内は業務地区という性格が強く、住民不在の地域である。そして、歴史的には美観論争が繰り広げられてきたにもかかわらず、昨今の大規模な景観刷新では主体間の対立構造が見えにくい。こうした問題意識から、今回のシンポジウムでは、「誰のための景観か、どのような景観が良いか」といった従来の景観論ではなく、「誰によって、どういうときに、どのように景観が問題とされてきたか」という景観論争が生まれる社会的政治的状況に焦点を当てることにした。
 解題兼第一報告として、杉平敦氏(若手研究会)から、60年代と80年代における景観論争では「官民対立」構造のなかで起こったが、90年代以降は官民それぞれの主張自体はほとんど変化がないものの従来の対立構造が表面化することはなかったこと、そして景観配慮の重要性だけは共有され、実際の景観の保存・復元の対象・理由・方法はバラバラであるとの現状が報告された。第二報告では、松橋達矢氏(日本大学)が戦後の丸の内の景観論争の系譜をI~V期に整理し、時代ごとに異なる主体によって異なる論点が争点とされてきたことが詳細に解説された。第三報告の中島直人氏(東京大学)は、大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり懇談会の結成が官民の協議を可能とし、景観がオフィシャルかつ丁寧に議論される仕組みが作られたにもかかわらず、審議会での議論が見えにくいこと、協議の前提に既定の都市計画諸制度等があるため大きな方針に関する議論は起きにくいこと、路上レベルのオープンスペースに協議の重点が移行していることから、各主体間の対立や論争があってしかるべきという齟齬が生まれているとの指摘があった。
 「『誰のため』『いかにして』の景観論」を超えた議論として、今回のシンポジウムでキーワードとなったのは「時間軸」であった。コメンテーターの吉見俊哉氏(東京大学)は、まず、丸の内が住民不在のランドスケープだとすれば、誰にとっての景観なのかを問い続ける必要があるとの見解を示された。そのうえで、高層ビルはグローバル資本主義と直結していて交渉不可能な空間である一方で、いまの足下の風景とが交渉可能なものになってきているとするならば、自分たちの記憶、歴史、都市の時間を、どのようにその場の中に実現するのかが現実的な課題になるだろうと指摘された。また、近森高明氏(慶応義塾大学)は、丸の内は、都市間競争を背景にブランド化戦略を取る一方で没個性化が進行しているが、そもそも開発戦略のなかにモール化という批判的な視点が組み込まれているため、「街がつまらなくなっている」という批判が無効化されやすい地域であると分析された。そのうえで、世代がごとに異なる都市体験があり、その複数のオーセンティシティを共存させていく可能性を考えることを提起された。
 従来は市民参加や住民主体のまちづくりという観点での景観論が多かったなかで、丸の内が上記のような景観論の変遷を経験してきたことは、住民不在であり皇居や東京の玄関という象徴性を持っている丸の内の特異性ゆえかもしれない。しかし、景観配慮の重要性だけは共有されながら、景観保存・復元の対象理由方法がバラバラであることは、丸の内だけに留まるものではなく、むしろ他の都市にも共通する現象である。「空間軸」だけではなく「時間軸」でも景観を読み解いていく、あるいは景観を作り上げていく―景観論の新たな方向性が示されたシンポジウムとなったのではないだろうか。


【2015年度 第2回研究例会を開催しました】

■ 関東都市学会 2015年度第2回 研究例会
■ 開催日時 2016年3月12日(土) 15:00~17:30
■ 開催場所 公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所 5階第1会議室

□報告1 
北陸新幹線開業による上越市の影響と今後のまちづくりに関する考察
―市民アンケートなど各種調査の分析結果から―
平原謙一(上越市創造行政研究所)

□報告2 
放射線治療施設整備に関する研究
舩岡伸光(町田市役所/立命館大学大学院博士後期課程)

□報告3 
パワースポットを取り入れた観光地域づくりの研究
内川久美子(法政大学大学院地域創造システム研究所/法政大学大学院博士後期課程)

■ 当日印象記

熊澤健一(公益財団法人科学技術広報財団)

 2016年3月12日土曜日、2015年度第2回関東都市学会研究例会が市政会館で開催された。
 第1報告は、平原謙一氏(上越市創造行政研究所)による「北陸新幹線開業による上越市の影響と今後のまちづくりに関する考察―市民アンケートなど各種調査の分析結果から―」である。上越市では昨年の2015年(平成27)10月30日(金)~11月1日(日)に日本都市学会第62回大会が「新幹線を活かした地方都市のまちづくり」をテーマに開催されており、興味深い報告となった。
 平原氏の報告は、平成27年3月14日に北陸新幹線が開業し上越市に上越妙高駅が誕生して1年が経過し、その多面的な影響として主に交通環境の変化が市民の心理(意識)及び行動に、また都市構造にどのような影響をもたらしたのかついて調査・分析を行い、分析結果から今後のまちづくりの方向性について考察するものであった。分析結果からは、今後の新幹線を活かしたまちづくりの方向性として、新幹線駅までの二次交通の充実により、地域活性化を図るとし、観光よりも地域外(都会)との交流の促進に重点を置いた方向性が提示された。一方、課題として広域から中心市街地(直江津、高田)を経て上越妙高駅と結ぶ二次交通網の整備の必要性が提示された。同様にフロアからも二次交通のわかりにくさの指摘があった。調査期間が短いため都市構造の変化についての調査・分析対象が在来線の変化に偏っており、今後も継続して地域経済(産業)等への変化も視野に入れた調査に期待したい。
 第2報告は、舩岡伸光氏(町田市役所/立命館大学大学院博士後期課程)による「全国放射線治療施設の現状把握」である。放射線治療の地域別適用率を明らかにすること及び放射線治療体制の現況を分析し、地域特性を明らかにすることを研究の目的としている。地域別適用率ついては全国放射線治療施設構造調査及び地域がん登録資料を用いて算出、結果とし日本の放射線治療適用率の全国平均値は22.5%から23.3%で、欧米の60%と比べると低く、また地域別の適用率に最大約2倍の差があり、放射線治療の地域間の差があることを報告した。次に放射線治療快晴の都道府県別実態把握をがん診療連携拠点病院のデータを用いて基本統計量を算出し、その結果として治療体制は早急に改善する必要があること、また主成分分析を行い地域的特性の偏りがあることが報告された。フローからは報告で示された地域間の格差の数字をだれが活用するのか、治療体制を改善するとは等の質問が出され、舩岡氏より地域ごとの偏りを改善することにより、どの地域に住んでいても平等に治療が受けられるようにしたいとの回答がなされた。
 放射線治療の適用率がなぜ欧米と差があるのかとの問いに集約されと思うが、がん治療方法の選択(基準)によるものなのか、それとも施設数によるものなのか、治療体制によるものなのか、については今後の研究の進展に期待したい。
 第3報告は、内川久美子氏(法政大学大学院地域創造システム研究所/法政大学大学院博士後期課程)による「パワースポットを取り入れた観光地域づくりの研究」である。まず、先行研究等よりパワースポットの定義は曖昧であることを前提に、アメリカのアリゾナ州セドナの例を引き観光まちづくり視点での研究としている。背景として観光が、特定の都市へ集中していること、また来訪者の要求も多様化しており、その対応としてニューツーリズムが求められていることを挙げている。パワースポットについては、新聞記事として1992年に初出、以後マスメディアに多く取り上げられることにより一般にイメージが形成されたとしている。内川氏はインターネットを使った調査によりパワースポットに対する認知度が一般に高いこと、また新聞記事の特徴語の抽出と分析結果からパワースポットのイメージを導出している。さらに、パワースポットを取り入れた青森県の観光政策を事例として、パワースポットの選定において地域固有の歴史・文化の発掘・再認識につながり地域観光資源となる過程を、またパワースポットの対象となった事象・要素の調査・分析を試みている。報告に対しフロアからパワースポット効果とされている入込数に対して他の要因もあるのではとの指摘があった。また、パワースポットについて非宗教的としているが、宗教的起源をもつものもともたいものがあるなかで宗教的なものの事例の方が多いとの指摘があった。筆者には「地域ブランド」ブームも初出はメディアでありその後の経緯と内川氏の報告とが重なって見えた。パワースポットがメディア主導の一過性のブームに終わることなく、なぜ人がパワースポットを求めるのかについての調査・分析を含め今後の研究の深化を期待したい。

関東都市学会研究例会 印象記
石神 裕之(京都造形芸術大学)

 2016年3月12日、後藤・安田記念東京都市研究所(市政会館)において開かれた「第2回研究例会」について、雑感を述べたい。
 第1報告の「北陸新幹線開業による上越市の影響と今後のまちづくりに関する考察―市民アンケートなど各種調査の分析結果から―」(平原謙一氏/上越市創造行政研究所)では、昨年開業した北陸新幹線が上越市の観光・ビジネスなどの人的な動きにいかなる影響を与えたのか、考察が加えられた。従来の在来線を主体とした結びつきが、新幹線開業によって変化している様子をアンケート結果からは読み取ることができる。とくに上越妙高駅周辺から新潟市方面へ向かう交通アクセス性が低くなり、長岡・新潟市などが心理的にも「遠くなった」と感じる人が増えたことは興味深い。首都圏との直接的なつながりを感ずるようになることで、旅行やビジネスなどの活動につながる一方で、従来の日本海沿岸の地域的な連帯が失われる可能性も否定できず、地方都市間の交流が本当に進むのか疑問も残る。また医師の確保やイベント開催などの効果はあるというが、企業の移転といったより具体的な効果が十分に認められない点は気になるところである。
 第2報告では、「全国放射線治療施設の現状把握」(舩岡伸光氏/町田市役所・立命館大学大学院博士後期課程)では、ガン放射線治療に関する地域別の適用率を統計学的な分析から検討した。そもそも日本の放射線治療の適用率(29%)が世界的にみても低いという指摘は新鮮であった。その理由は発表後の討議でも指摘されていたが、そうした機器を扱う専門技師や医師の数が少ない点も影響を与えており、また個々の治療事例(ガンの部位・治療方針など)を加味しつつ、より詳細な「要素」の抽出と検討が必要であると感じられた。とくに主成分分析の検討要素に「資源(人的・設備)」を挙げたことで、医療体制の「充実度」だけが検討対象になってしまったきらいがあるように思う。地域ごとの粗密をみるよりも、医療の地域的な連携といった「充足度」を捉え、高めていくためのポイントを見出せるように、さらなる方法論の成熟を望みたい。  
 第3報告は、「パワースポットを取り入れた観光地域づくりの研究」(内川久美子氏/法政大学大学院地域創造システム研究所・法政大学大学院博士後期課程)であった。内川氏は冒頭でメディアでのパワースポットの取り扱い方を通して、人々のパワースポット・イメージを抽出するという手法を取っていたが、そもそもそれらはメディア自らが作りだしたものであり、本来的な人々のイメージを抽出したことにはならないだろう。氏は、パワースポットを地域活性化の資産としたいということが本来の目的であるようであり、それならば、創出される「伝統」とも言うべき、作られていく「聖地」(昨今ではドラマやアニメなども)の活動などとも絡めて、その創出のあり方を詳細に比較検討していくことが必要といえるのではないだろうか。
 
 
【2015年度 第1回研究例会を開催しました】

■ 日 時
 2015年9月26日(土) 15:00~17:30

■ 場 所
 秋葉原ダイビル12階
 首都大学東京 秋葉原サテライトキャンパス 会議室B

■ プログラム
 報告1 訪日外国人の旅行先分布について―地域特性による考察
 廣部恒忠(明海大学経済学部経済学科教授)

 報告2 都市における域内分権の現状と課題
      ~区制度の混在と大都市自治拡充の視点から~
 橘田誠(弘前大学客員研究員)

■ 当日印象記

2015年度 第1回研究例会印象記
須藤直子(早稲田大学)

 2015年9月26日土曜日、2015度第1回関東都市学会研究例会が首都大学東京秋葉原サテライトキャンパスで開催された。
 第一報告は、廣部恒忠氏(明海大学経済学部経済学科教授)による「訪日外国人の旅行先分布について―地域特性による考察」である。観光庁による「宿泊旅行統計調査」(2008年~2013年)を用いて、日本を訪れる外国人の訪問先都道府県の特徴を明らかにし、特に出身地域グループ別の特化傾向が示された。例えば、アジア・オセアニア地域からの旅行客は、比較的短い滞在期間に観光地をくまなく周遊する傾向がみられる一方で、欧米諸国は予め目的地(滞在先)を絞った限定的な旅行になるという特徴があった。また、2008年から2013年までの変化として、福島県や宮崎県など特定の地域に関心が集まる傾向が強くなっているという指摘があった。これらの分析結果は、外国人がいかなる目的で訪日するのかという近年の動向を端的に示しており、各都道府県が観光に関する政策を進める上で有効なデータとなるといえよう。その一方で、フロアからの質問にもあったように、出身地域グループ別の特徴や傾向は、一体何に規定されているのかという点は興味深いところである。ぜひ今後のさらなる分析を待ちたい。
 第二報告は、橘田誠氏(弘前大学客員研究員)による「都市における域内分権の現状と課題~区制度の混在と大都市自治拡充の視点から~」である。まず、大都市行政の争点となってきた区制度について、明治期に遡って沿革を整理し、平成の大合併に至るまでの経緯が示された。その過程では、特別区の設置や「総合区」制度の創設など、区制度が混在していく実態があった。それを踏まえ、橘田氏からは、今後の大都市における域内分権は「市・区・地域」という3層をベースに制度設計をする必要性が提案された。この3層について、フロアからは多くの質問が寄せられた。例えば、「地域」とは、従来の集落や字を想定することができるのかというものである。また、「市」の団体自治を拡充するという方向性は、住民自治と両立しうるのかという質問もあった。これらの質問は、図らずも平成の合併の評価がまだ必ずしも十分に行われていないという批判あるいは反省を背景にしていると考えられる。大都市の今後の地域自治を考える上で、合併市が経験した新しい区制度のあり方を再検討することは不可欠であり、橘田氏の考察ならびに提案は、その再検討に大きく寄与するといえる。そして、フロアとの活発な意見交換も印象的な報告であった。

 【2015年度 関東都市学会春季大会を開催しました】

■ 日時:2015年5月30日(土) 12:30~17:50

■ 場所:玉川大学 大学教育棟2014 6階 612教室

■ プログラム

○ 自由報告(12:30~13:50)

インプット・アウトプット・アウトカム評価(IOO評価)―都市における共助・協創のための縁づくり・場づくり支援NPO活動の業績評価手法の提案及び有効性検証
坂倉杏介(東京都市大学)・前野隆司(慶應義塾大学)・加藤せい子(NPO法人吉備野工房ちみち)・林亮太郎(慶應義塾大学)・三田愛(リクルート)・保井俊之(慶應義塾大学)

藤田都市論の射程
高橋一得(関東学院大学) 

東京五輪(2020)の政策課題と都市政策
金子光(明海大学) 

○ シンポジウム(14:00~16:40)
<テーマと企画趣旨>(企画担当:理事・研究活動委員 下村恭広)
・テーマ:市(いち)」の都市論 ― 仮設的社会空間の創造力
・企画趣旨
 ここ10年ほどのあいだ、「市 いち」と呼ぶべき新しい売買の場が増えてきている。たとえば「手づくり市」「クラフトマーケット」「クリエイターズマーケット」などと呼ばれるようなイベントや「ファーマーズマーケット」と呼ばれる定期市的な農産物直売会がそれにあたる。これらは様々な形態をとるが、次のような特徴を共有していると思われる。第一に、これらの売買の場が常設ではなく、何らかのオープンスペースを流用した仮設的なものであること。第二に、いずれも商品の生産者と消費者とが直接対面して売買をする場であること。時にそれは、既存の流通機構とは異なる経路での売買を志向していること。第三に、こうした売買の場が賑わいを生み出すため、地域振興(まちづくり)などの目的と結びついて開催される場合もあること。すなわち、純粋に経済活動に還元できない意義が込められている場合が多いことである。
 商店街、デパート、スーパー、コンビニ、ショッピングモールなど、都市の商業空間は時代によって様々な形態をとってきた。そうしたなかで「市」は前近代的で消えゆく存在として見なされていたが、1980年代以降のフリーマーケット文化の定着や、近年の新しい「市」の登場を踏まえると、実際には何が生じていると理解すべきだろうか。
 市場は、「しじょう」とも「いちば」とも読むことができるが、「いちば」もしくは単に「いち」と読むときは、多くの場合、経済的取引が実際に行われる場所や制度のことを指す。「いちば」が具体的な場所と切り離して理解できない点は重要で、都市論の対象となる由来は主にここにある。今回のシンポジウムでは「市」という空間の仮設性が現代都市で持っている意義を積極的に評価するとともに、それが何によって成り立っているのかについて考察する。
 「市」についてはこれまで経済史を中心に研究が蓄積されてきたが、近年は様々な分野からの都市論的研究が進んでいる。このシンポジウムでは、都市学会が学際的な議論の場であることを活かし、様々な立場からの「市」へのアプローチを試みる。はじめに石井清輝氏(高崎経済大学)には、東京都文京区の光源寺ほおずき千成り市ならびに台東区谷中を中心とする不忍ブックストリートを事例に、「市」をめぐる新しい局面について社会学的観点から論じていただく。次に厚香苗氏(立教大学)には、行商やテキヤなど伝統的な「市」の担い手について、民間伝承論・民俗学の立場から論じていただく。最後に初田香成氏(東京大学)には、戦後東京の闇市を事例に、近代以降の都市における「市」的なものとそれに着目する意義について都市史の文脈で論じていただく。

<登壇者>
・司会・解題:下村 恭広 (玉川大学)
・報告者
石井 清輝 (高崎経済大学)
厚 香苗  (立教大学)
初田 香成 (東京大学)
・コメンテーター
五十嵐 泰正(筑波大学)
内田奈芳美 (埼玉大学)

○ 総会・理事選挙(16:50~17:50)
○ 懇親会(18:00~20:00)

■ 印象記
2015年度春季大会自由報告印象記
杉平敦(東京大学大学院)

 2015年度関東都市学会春季大会は、玉川学園の誇る豊かな丘陵の入り口に程近い、大学教育棟2014で開催された。6階の教室からは小田急の線路を挟んで、その向こうの丘に重なり合う瀟洒な街並みを遠くまで望むことが出来た。
 第1報告は、坂倉杏介氏・前野隆司氏・加藤せい子氏・林亮太郎氏・三田愛氏・保井俊之氏による「インプット・アウトプット・アウトカム評価(IOO評価):都市における共助・協創のための縁づくり・場づくり支援NPO活動の業績評価手法の提案及び有効性検証」であった。本報告では、都市型の地域の場づくり団体を対象として、それらが地域住民の間のつながりを構築した成果を可視化して検証することが目的とされた。従来のインプット・アウトプット評価だけでなく、実際に「おこったこと(アウトカム)」にも着目することで質的な成果も可視化できるとして、国内外6都市でIOO評価のワークショップを開催した。結果は性別や年齢に応じて差があるものの、総じて参加者からは高い評価が得られた。自らの活動を客観視できたり、自己肯定感を持てたり、といったことによる意識の変容も見られたとのことである。会場からは、評価の対象となる団体の探し方・選び方についての質問があった。
 続いて、高橋一得氏の「藤田都市論の過程」という報告があった。藤田弘夫氏(当学会元会長、2009年逝去)の都市論は、領域横断的な記述から「都市社会学」を超えて「都市論」になったとされつつ、現在の都市社会学からは正当な評価・研究が為されているとは言い難い。そこで、その理論を詳細に再検討することで、射程と可能性とをあらためて明らかにすることが、報告の目的とされた。いかなる背景や周辺状況から「藤田都市論」が形成されていったのか、藤田氏自身の著作に触れながら、時に発言を思い出しながら、分析的に理解が進められた。その結果、藤田都市論は多様な背景知識や幅広い関心から形づくられたものであるが、シカゴ学派とは異なる都市社会学の遺産を継承した思想でもあり、現代の都市社会学にとっても多大な意義を有するものである可能性が示された。会場には藤田氏と直接の面識を有した人々も多く、ある時期に何故か「理論」ということについてあまり言及しなくなった藤田氏について、思い出深く想起するような指摘もあった。
 最後は、7年前と同じ玉川大学で、7年前と同じ金子光氏による、「東京五輪(2020)の政策課題と都市政策」であった。東京五輪に向けた都市創生については、国・東京都・中央区・地域組織など様々な主体が意思決定へ参画できる仕組みが必要であり、連携・調整のメカニズムの解明が急務とされる。その中で、選手村の設置が予定される中央区の晴海地区では、都市交通の整備が検討されているが、同時に五輪以降をも見据えた都市の構想が議論されている。活発に議論されているのはBRT(Bus Rapid Transit:連接バスや道路改良などで、輸送力と柔軟性を兼ね備えた、バスをベースとした都市交通システム)だが、路面電車や地下鉄など複数の選択肢もあり、財政の効率性や主体間の調整の結果として意思決定が試されることになる。このような背景の中での各々の主体の動きを分析し、今後の課題を指摘する内容だった。会場からは、BRTの概念が日本に導入された時、それが海外のものと全く異なるとして議論になった事情が紹介された。報告では東京都による説明をBRTの定義として用いていたが、これについても今後、検討が必要になるかもしれない。


2015年度春季大会シンポジウム印象記
川副早央里(早稲田大学大学院)

 大会の後半は、「市(いち)の都市論―仮設的社会空間の創造力」と題したシンポジウムが開催された。都市の商業空間がさまざまに変化し、「市」は前近代的で消えてゆく存在とみなされていたなかで、1980年代以降、神社の境内を使った市、素人・趣味による市、生産物を直接売買する空間など、「市(いち)」と呼ぶべき仮設の売買する空間が散見されている。今回のシンポジウムは、そうした近年の新しい「市」をめぐる動向に着目し、都市の社会・空間構造の検討と都市論再考に迫った企画である。
まず司会・解題を務めた下村恭広氏(玉川大学)は、近年の「市」は仮設的であること、生産者と消費者が直接対面で売買する場であること、経済活動に還元できない意義があるという共通した特徴があると述べ、「市」を「しじょう、いちば、いち」に分けて概念整理をすると、新しい市は「いち」の最新形態として位置付けられると解説された。
 第一報告の石井清輝氏(高崎経済大学)は社会学の立場から、近年各地で広がりつつある素人中心型の市の実態とその社会的意義について報告された。新たな形態の市には参加者同士の関係性のインキュベータ機能と参加者の地域参加への回路づくりという新たな社会的機能があること、そして素人型であることにより運営基盤の脆弱性、運営に関するノウハウの欠如、参加者の固定化という両義的特徴を持つことが指摘された。
 第二報告は、民俗学の立場から厚香苗氏(立教大学)からは、常設の前近代からの伝統的な市の担い手であるテキヤについて社会的原理や空間的編成、共有された規範など、伝統的な市が成立していた背景について解説していただいた。そのうえで厚氏は新しい市について、「一般の人々がよろこんで自発的に参加する(参加できる)ケースは歴史的にみると稀なのではないか」と指摘された。
 第三報告は、建築史の立場から初田香成氏(東京大学)からは、戦後東京に生まれた闇市の事例から、市的なものが都市の中でどのように社会的空間的に再編されてきたのかについてご報告いただいた。闇市は、特に高度経済成長以降、一見都市の表層から失われるものの、通奏低音として日本都市を規定してきた要素であり、都市のある種の普遍的活動と位置づけられると説明。ただし、吉祥寺のハーモニカ横丁など闇市横丁の現代的な再生が行われているなかで、再生されるのが空間なのか機能なのかが問われると指摘された。
 コメンテータには、まちづくりの現場に関わっておられる内田奈芳美氏(埼玉大学)と五十嵐泰正氏(筑波大学)を迎えた。大きな問いとして、内田氏からは、新しい市には主流の資本主義とは異なる交換形式の経済が見られるのではないか、今後考えられる第三の市の形は何かとの問題提起があった。その際に、ニューヨークのユニオンスクエアの事例を挙げ、「大資本による市場のふりをする市場」が出現し、大資本が望むブランド化によるジェントリフィケーションが進む動きがあることも紹介された。五十嵐氏は、柏市の「柏の手の市」に携わる経験をもとに、素人型の市が市民参加やインキュベータ機能の可能性を持つが、多様な市の形があるなかで参加者の多様性や公共性の水準をどのように捉えるべきかとの問いを提示された。
 報告者からはそれぞれ、大資本が素人型の市に入り込んでくる可能性はあるが、「儲けない」という主催者の意図を前面に出せるのが素人型の市の特徴である(石井氏)、雇用確保という点では、組織化された伝統的な市は低所得層が集まる都市部の下町において未だ重要な役割を持っている(厚氏)、伝統的な市と新しい市の動きだけ見れば対立するようにみえるが第三の動きを考えれば互いに学べるところもあるのではないか(初田氏)とのリプライがあった。
 3つの報告では異なる学術的立場から、異なる時代背景および主体による「市(いち)」のあり方が提示され、それぞれの報告及び事例が大変興味深いものであった。確かに時代や主体によって差異はあるが、都市の周辺領域に見られる「いち」的なものには時代や空間を超えた普遍的な営みの形があり、その都市のエネルギーや新しい時代の片鱗が映し出されるのだろう。シンポジウムのなかでは、資本の論理、まちづくりとの親和性、雇用問題、公共性の水準など、様々な論点が提示された。まさに都市学会にふさわしい学際的テーマであり、今後のさらなる議論の展開と深化に期待が寄せられたシンポジウムであった。今回は国内の事例に焦点が当てられたが、国外の事例との比較の可能性にも期待が高まる。尽きない議論は場所を懇親会の席へと移して引き続き行われた。

 【関東都市学会 研究例会 を開催しました】

■ 開催日時 2015年3月14日(土) 15:00~17:30
■ 開催場所 公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所 5階第1会議室
         (東京都千代田区日比谷公園1-3市政会館)
■ プログラム
報告(1)
中国乳都としての呼和浩特市における酪農業振興戦略 
―牧草業の振興の重要性を中心として
周華 (高崎経済大学大学院地域政策研究科 博士後期課程)

報告(2)
 「市(いち)」の都市論―仮設的社会空間の創造力
下村恭広 (玉川大学 リベラルアーツ学部)

■当日印象記
関東都市学会研究例会 印象記
沼田真一(早稲田大学大学院)

 第一報告である周華氏(高崎経済大学大学院地域政策研究科後期課程1年)の発表「中国乳都としての呼和浩特(フフホト)市における酪農業振興戦略」は、中国の酪農におけるイノベーションを検討するものであった。
 中国では酪農を基幹産業として位置づけており、呼和浩特市は「乳都」と呼ばれ、1996年以降、急速な成長を遂げてきたが、近年の飼料価格の高騰から成長は鈍化している。これに対して、酪農家は飼料の生産を自前で行うことによって、持続的成長を目指し、これに成功している。飼料購入のコスト削減、乳製品の品質の向上が実現し、二次的な効果として牧草の生産にともなう土壌改良が進んでいる。こうした状況の中で、生産者としては公的支援の必要を強く希望していることなどがアンケート調査によって報告された。また、最後に今後は中国のこうした生産活動を支える協同組合について調査、研究していくことを課題として挙げた。
 議論の中では、イノベーションを論じる際の領域性、論文に示されている数字との関係、専門用語としての酪農に関する用語の使用と定義など、細かな発表に対する応答がなされた。日本における酪農との比較研究など、留学生としての現在の強みを活かしたオリジナルの研究展開についての提案など今後の研究に関わる有意義な意見交換がなされたといえよう。
 第二報告の下村恭広氏による報告「『市(いち)』の都市論―仮設的社会空間の創造力」は2015年の大会シンポジウム発表への準備として、現在検討されている「市」の都市論について意見交換し、論点を確認、絞り込み、新たな展開を模索するものであった。
 市がどういう意味をもっているのか。その仮設的な空間に着目しながら、既存研究における「市場(「しじょう」もしくは「いちば」)の相違点などを概略し、近年における「市」の登場をどのように位置づけ、説明できるかを検討した。たとえば、近年ではフリーマッケットが大きな転機となって、その後のファーマーズマーケットやクラフト市などが誕生しており、こうした動きは21世紀になるとより顕著になっている。活発な意見交換となり、「政治権力構造」「規制・制度」「創業プロセス」「生活空間」「非日常性」「原始的交換経済」「スプロール化」「グローバリズム」などのキーワードが抽出できよう。
 「市」とはどのような機能を持つのか、仮設的に現出するこの経済活動をいくつかのキーワードから解体、再構築することで、21世紀における新たな都市論を描き出すためのヒントをえることができるだろう。そうした大会シンポジウムに期待が持てる発表と意見交換であった。


※ これ以前の活動記録は、「学会活動報告」をご参照下さい!


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